南部弁男子の飼い方 | ナノ




9-A.友達っていろいろ

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「リュウ〜!部活行こ!」

明日からの大会に向けて、今日はミーティングと調整メニューをする日だ。めんどくさそう、などと言ってサボるかもしれないと思い、睦朗は竜介を誘ってグラウンドへ行くことにした。

「おー。ミーティングってグラウンドでやんの?」
「そうだよ。早く行かないと先輩たち来ちゃう!」
「イマドキ古いぜ、体育会系なんかさぁ」

実は、陸上部は上下関係が緩い。元々人気がある部活でもなく、男女合わせても3年生は10人、2年生は8人、1年生は5人と、他の部活動に比べて部員数は少なめだ。顧問の朝倉先生いわく、新入部員は年々減少していく傾向にあるらしい。
少ない人数での部活動は和気あいあいとして、先輩たちはみんな優しい。だからこそ睦朗は、そんな尊敬する先輩たちに失礼がないようにしたかった。

「ムツは大会出ないのに真面目だよなー」
「リュウは出るんだから、もっとちゃんとしないと駄目だよっ」
「なんか、いっちゃんが増えたみたいだ」

竜介は1年生の中で唯一、大会に出場する。一番選手層が厚い短距離ブロックで、部内の選抜に勝ち残ったのだ。

「1年生で一人だけって、すごいんだからね」
「へーへー」
「もう……。ちゃんと練習したら、リュウはきっと誰より速いのに」
「はははっ!んなことねーよ」

睦朗は少し意外に思った。竜介なら、謙遜せずに調子に乗ってきそうなのに。
スポーツ全般が得意で、体育の授業は人一倍目立つし、本人も楽しそうだ。それなのに、部活にはあまり真剣に打ち込んでいる様子がないのが、睦朗は不思議だった。

「……リュウは部活あんまり好きじゃないの?」
「あんま考えたことないな〜。楽しけりゃいいし。まっ、確かに苦しい練習でヒーヒー言うのは楽しくないし?たかがガッコーのブカツでそんなムキになるのもさ」
「そうなんだ……」
「あ!別にムツが真面目にやってるの、馬鹿にしてるわけじゃねーよ!?」

睦朗の表情が曇り出して、竜介は慌てて取り繕った。自分のせいで、睦朗が気分を害したかもしれない。高校に入ってから初めて経験する種目に取り組む睦朗が、毎日真剣に練習しているのを知っていた。
睦朗のその情熱が、竜介は羨ましかった。

「ムツはえらいじゃん!自分で陸上雑誌買って、練習の仕方とか勉強するし!俺とは大違いっつーか!それに、ほら、先輩たちもお前のこと気に入ってるし、それはきっとお前の頑張りが認められてるからっつーか、努力のタマモノ?とか、そういうやつで……って、なに笑ってんだよっ!」
「ふふふふ、ごめん、リュウが必死だったから、つい……あはは!」

グラウンドには一番乗りだった。
石灰の白いラインが、綺麗にトラックの形を作っている。見慣れた光景が、竜介の記憶と重なった。このホームストレートを、全力で駆け抜けた頃があった。

「……一番速いやつが優勝、ってすげーわかりやすいよな。馬鹿の俺でもわかる」
「え?うん、確かにルールは単純でわかりやすいよね」
「でも一番になれるのは一人だけでさ。じゃあ負けた他のやつらって、いったい何なんだろ。一人以外はぜーんぶ負けでそれが、山のようにいて、でも勝ったやつはたった一人で、……ひとりぼっちで」

なぜ勝者は孤独なんだろう、と足りない頭で考えても答えは出なかった。いつしか考えることをやめた。かつてトラックに置き去りにした自分の影を、竜介は少し思い出していた。

「うーん、難しいことは俺もよく分からないけど……。一番になれたらやっぱり嬉しいし、努力して良かったって思うだろうし、あとは応援してくれた親とか仲間とも、一緒に喜べると思う。喜んでもらえたら、もっと嬉しくなるよね」
「嬉しい……」
「それに、勝って嬉しいとか、負けて悔しいを共有できるのが、部活の仲間なんじゃないかなぁ」
「ムツは、俺が優勝したら喜ぶ?」
「もちろんだよ!」

笑顔で言い切った睦朗が、ちょっとだけ眩しかった。

「やっぱ、ムツっていーやつだな」
「えっ!?そ、そうかな?えへへ!」
「チョーシのんなよっ」
「いたっ!」

竜介のデコピンが、睦朗の眉間にクリーンヒットした。竜介との距離が縮まった気がして、睦朗は嬉しかった。


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