南部弁男子の飼い方 | ナノ




8-B.文武両道はへっちょ

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テストまであと一週間。睦朗の家に集合して、勉強会が始まった。

「マジで一人暮らし?すっげー」
「リュウ、勝手にあちこち見たら駄目だよ」

小さな一軒家とはいえ、高校生が一人で暮らすには十分広い。竜介が興味津々でウロウロし始めたのを、和泉が止めた。

「おじさんが海外出張の間だけ、住まわせてもらってるんだ」
「へえー!なんかかっけぇー!」

格好いいと褒められて、睦朗はちょっと気分が良くなった。ただし、褒められたのは睦朗ではないのだが。

居間の大きなテーブルも、四人で囲むとやや狭く感じる。いつも一人でぽつんと座っているから、睦朗は賑やかなテーブルが楽しくてしかたなかった。友達ができて良かった。これも和泉のおかげである。

「じゃあムツは英語を集中的に、リュウはとにかく今まで溜めた課題を消化することから、だな」
「高校生にもなって宿題出るとかさー、遊ぶ時間が減るじゃんか」
「高校生にもなって宿題もできないんだな、リュウは」
「ぜんちゃんだって遅刻常習犯だろっ!」

劣等生の睦朗と竜介が並び、その向かい側に善治と和泉が座った。
和泉は自分の勉強は最初から諦めていた。開いたページの一問目から解き方を教えてくれと言う竜介相手では、そんな暇はないことを長い付き合いの中で熟知していたからだ。

睦朗は言われたとおり、英語の問題集とノートを広げる。この中から問題が出ると先生が言っていたので、問題集をしっかり勉強しておけば間違いないと和泉が言っていた。英訳、和訳、並べ替え、長文読解……本番のテストを想定して一通りそろった設問を解き始めた。辞書を片手にシャープペンシルを滑らせ、あーでもないこうでもないと書いては消して、消しては書く。

そんな睦朗の様子を時折確認しながら、善治は日本史の課題プリントを解いていた。和泉を見ては、竜介の相手で忙しそうだと、また問題集をにらむ睦朗に、少しだけイライラしていた。律儀に善治の邪魔しないという約束を守っているのだろうが、分からないところを分からないままにしておく気なんだろうか。
じっと見ていると、たまたま顔を上げた睦朗と目が合った。

「どこ」
「えっ?」
「わかんないとこ」
「あ、うん、この問題……」

並べ替え問題でつまづいていたらしい。和文と英単語を繋げてなんとか並べようとした形跡がある。

「日本語も英語も同じ内容の文章が並んでるのに、なんで分かんないかな」
「うっ……そうだよね、ごめん」
「よく出てくる構文が分かれば簡単だろ、こんなの」
「ごめん」
「善治、教えるときは、や、さ、し、く」

いつもの調子でダメ出しする善治に、和泉が諭すように忠告をした。睦朗がすっかりしょげていたからだ。和泉も竜介も、善治が素直に優しくできないことには慣れている。

「単語の意味が分かってるなら、なんとなく文になりそうなかたまりも分かるだろ?」
「うん。これがこっちで……」
「バラバラの文の間にthat置けば繋がるだろ」
「あ、そうかぁ。これ主語じゃないのか」

和泉の心配をよそに、このときの睦朗は、善治の辛辣な言葉よりも、自分の英語センスのなさに落ち込んでいた。だから、自ら声を掛けてくれた善治は、むしろ優しいと思っていた。

「なんだかんだ言って、ぜんちゃんってばちゃんと教えてくれるんだね」
「あまりにも進みが遅いから目に付いただけ」
「気にしててくれたんだね、ありがとう」
「……ボジティブ脳」

睦朗には善治のイヤミも通じない。むしろ、前向きな睦朗に押され気味だ。これが竜介なら、ムキになって言い返したところを、返り討ちにされている。

「ぜんちゃんは、やっぱり優しいな」

ニコニコと嬉しそうにまた問題を解き始めた睦朗に、やっぱり調子を狂わされる善治なのだった。


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