南部弁男子の飼い方 | ナノ




8-@.文武両道はへっちょ

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日曜日の午後、睦朗と和泉は一緒に大型のスポーツ店へ来ていた。部活道具を買おうにも、どこにどんなショップがあるか分からない睦朗の相談を受けて、和泉が案内してくれたのだった。

「ごめんね、いっちゃん。助かったよ」
「今日は予備校ないし、大丈夫だよ。部活はどう?」
「へっちょだよ〜」
「へそ?」
「ごめん!大変だって意味で……」

和泉の前ではつい気を抜いてしまう。普段はかなり気をつけて疲れるせいもあって、和泉にはだいぶ心を許していた。

「いっちゃんとなら素でいいから、ついつい訛りが出るなぁ」
「面白くていいよ。俺らは方言ないからね」

和泉は逆に、その地方の人間だけに分かる独特な表現というのが羨ましかったりもする。睦朗が話す言葉は時折、秘密の暗号めいていて、どこか茶目っ気があるところがいいと思っていた。

「この辺が陸上競技のコーナーみたいだよ」
「わー!」

壁一面に陳列されているシューズは、まさに圧巻だった。カラフルな列の中から、自分の種目に合ったスパイクを探し出すのは、まるで宝探しのようで、睦朗の心は躍っていた。

「これカッコイイなぁ。いくらだべ……うっ駄目だ、予算オーバー」
「あれはどう?」
「あーっ、いいね!隣のやつはリュウとか好きそうだなあ」
「そうだね。そういえば、リュウはちゃんと部活出てる?」
「うーん、それがね。まちまちで。来ても手を抜いてるような感じ」

竜介はあまり真面目に部活に取り組むタイプではなかった。よく欠席しては友達と遊んだり、部活に顔を出しても、どこか適当に手を抜いている。そのくせタイムトライアルでは最速だったりと、周囲からはあまりいい目では見られていなかった。

「ちょっと先輩とかに目を付けられてるかも。それで余計に来づらいのかな?」
「そうか、しょうがないなぁ。ムツも声掛けて、連れてってあげて」
「うん!」

睦朗にとっては、竜介も大事な友達のひとりだ。ちゃんと練習すれば、竜介ならインターハイだって出場できるだろう。入学式の朝の、竜介の俊足を、睦朗は鮮明に覚えていた。
それに、和泉に頼られたからには、全力で応えたい。

「ん、これにしよ。まだ初心者だし、これくらいでちょうどいいべな〜」
「棒高跳びだっけ?ちょっと怖そうだよね」
「んだ〜。おっかないよ!まだ跳べてないんだよね、実は」

跳躍のための体幹補強トレーニングをしたり、助走スピードを上げるために短距離ブロックと練習したり、今はまだ基礎練習が多い。同じ種目の富谷先輩に教えてもらいながら、実際に跳躍する練習も少しずつ積み重ねているが、なかなかバーを跳び越えるところまではいかなかった。

「目標は秋の新人戦で記録無しにならないこと!まだ全然フォームも形になってないから、夏の高総体は出られないんだ……」
「焦らず頑張れよ。俺も善治連れて応援行くからさ」
「わ!本当?がんばんなくちゃ!」

和泉に格好いい姿を見せられるように、と真新しいスパイクを手に、意気込んだ。




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