南部弁男子の飼い方 | ナノ




7.部活、なにやるべ?

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 睦朗と竜介は、放課後の体育館にやってきた。
 体育館は真ん中で仕切られており、バスケ部とバレー部がそれぞれ活動していた。ボールを打つ音や、部員の掛け声が響いているだけで、竜介はその中に混ざりたくなってうずうずしている。

「うわー、やりてぇ。」
「とびこみはさすがに無理じゃないかな?」

 かたや睦朗は、部員の多さに圧倒されていた。田舎の小さな学校では、ひとつの部活動にこれだけの人数は集まらなかったからだ。ここでもやはり、東京は違う、という部分を見せつけられた気分の睦朗は、完全に委縮している。

「お、吉田じゃん?」
「ちーっす!おひさっす!」
「なになに、入部希望?お前ならマジ大歓迎!」
「いやーただの見学っす。」

 二人を目敏く見つけて声を掛けてきたのは、竜介の中学の先輩だった。睦朗そっちのけで進む会話からは、竜介が入部を強く望まれていることが窺える。それは、どこの部に行っても同じようだった。

「え、吉田入る?マジ?」

 野球部でも。

「お前なら即レギュラーでもいい!」

 サッカー部でも。

「嘘っ!とうとう入部する気になったか!?」

 テニス部でも。

 その他ありとあらゆる運動部の先輩が、竜介を見つけては声を掛け、見学だけして去っていく背中を惜しげに見送った。

「リュウすごい。引く手数多だね。」
「中学の先輩がいっぱいいるだけ。だいたいみんなここに進学すっからさ。」
「それにしても、信望があるっていうか。」
「ないない!」

 あっけらかんと笑う竜介だが、それだけではないような気がしている睦朗は、その言葉を鵜呑みにはできなかった。

「中学までは何部だったの?」
「一応陸上部だったけど、いろんな部活に顔出してたなー。他の部の試合に呼ばれたりとかしょっちゅうだったぜ。」
「ひえ……運動神経良過ぎじゃない?」
「むしろ運動しかできないっつーか!」

 善治に散々バカだのなんだのと言われているが、竜介もそれは自覚していた。ただ、言われっぱなしは気が済まないので、言い返しているだけで。
 そして、最後にたどり着いたのは陸上部の使うグラウンドだ。よく見慣れた練習風景に、睦朗はいくらかホッとしてキョロキョロと辺りを見回した。短距離、中長距離、跳躍と、それぞれの種目ごとに分かれて部員が練習に打ち込んでいた。

「お、一年か?」
「はいっ!あの、見学で……。」

 ここでもやっぱり、気が付いた部員に声を掛けられる。また竜介を勧誘するんだろう、と予想した睦朗は、思わず一歩下がって竜介に半身だけ隠れた。その先輩部員がやたら逞しくて、少しだけ臆してしまったというのもある。竜介の方は大して気にしていない様子だ。

「いいぞいいぞ!経験者も未経験者も大歓迎だ。ちなみにどっちだ?」
「一応経験者っすー。スプリントで。」
「あっ、俺も、中学は短距離やってました。」
「なんだ、迷うことなく陸上部でいいじゃないか!どうだ、入るか?」

 どうやら竜介の勧誘にとどまらず、睦朗まで入部させる気満々らしい。グイグイくる先輩に圧倒されつつ、まだ見学なんで、と逃げる二人。さすがの竜介も押され気味だ。
 これは不味い人に捕まった、と冷や汗をかく二人を救ったのは、リレーのバトンで先輩部員を後ろから小突いた中年だった。

「おい、富谷。新入生ビビってるだろ。威圧感出して迫るな。」
「ん?そんなつもりなかったですけど。」
「説得力ねーな。いいから戻れ。」
「うっす。」

 中年男性はあっさりと先輩を退けさせ、バトンで肩をとんとんしながら睦朗と竜介を交互に見た。

「悪かったな。あれは三年生のとんだ熱血野郎だ。」
「はぁ。」
「俺は顧問の朝倉だ。見学なら好きなだけしていくといい。」
「あざーっす。」

 陸上部の顧問は、ジャージに運動靴、首からタオル、加えて癖っ毛の朝倉先生、と睦朗の記憶に刻まれた。キリッとした中にも優しさが含まれて滲み出ている、スポーツマンらしい爽やかさを持った顔立ちだ。

「お前たち、二人ともスプリントか。」
「そうです。」
「ふぅん……。吉田は中学の都大会でそれなりの成績残してたな。」
「まぁ、そこそこ。」
「嶋守は……出身がたしか、」
「あーっ!都内ではないんですよ!よく覚えてますね!あと成績は全然良くなかったです!」
「お、おう。」

 睦朗の勢いに押されて、朝倉先生はそれ以上は言わなかった。地方出身と知っているのは和泉だけではなかった。教師陣は当然知っている。
 そのことをうっかり忘れていた睦朗は、危なかった、と内心溜め息をついたが、気を取り直してグラウンド内を見渡した。各ブロックごとに分かれた練習は、それぞれの種目の特徴が出やすく容易に見分けがつく。その中で、特に睦朗の目を惹いたものがあった。

「棒高跳び、やってるんだぁ。」
「え?あーほんとだ。」
「うちの中学は誰もやってなかったんだよね。」

 ポールを使い、遥か頭上にあるバーを跳び越える種目。物珍しさもあって、選手が跳ぶ一連の動作をなんとなく目で追った。ポールを構え、強く蹴りだした一歩目の助走。スピードにのせて突き立てたポールがしなり、反動で高く浮いた体躯。しなやかにバーを跳び越えて、マットに落下した音。

「……かっこいい。」
「興味あるならやってみろ〜。高校から始める奴も沢山いるぞ。うちにはアイツしか選手いないしな。」

 なにかが心の琴線に触れたらしかった。朝倉先生が掛けた声も半分ほどしか耳に入ってこない状態の睦朗は、目を輝かせて竜介に言った。

「俺、棒高跳びやる!陸上部入る!」
「マジで?えー、じゃあ俺も陸上部でいっか!」

 なんとなく流れで、竜介まで陸上部入部が決定した。


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