6-A.友達増えた!
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昼休み。
それは食券及び購買商品を巡る生徒たちの戦いの時間だ。チャイムが鳴り終わると同時にロケットスタートで教室を飛び出し、三年生に遠慮する二年生と、二年生に怯える一年生と、我が物顔で悠々と列の前に並ぶ三年生との、壮絶なバトルなのだ。
そして現在、新一年生の中でも最強と謳われるのが三組の吉田竜介である。
「焼きそばパンとメロンパンとあんパンとチョコクロワッサンゲットォォォ!!」
勝利の雄叫びを上げて、勢いよく教室に舞い戻ってきた竜介に、クラスメイトも「今日は四つか……」「ツワモノ……」とざわめく。
「ご苦労。チョコクロワッサンを買い取る。」
「130円!毎度ありー。」
グータッチを交わし、小銭とパンを交換したのは善治だった。
窓際の和泉と竜介の席に椅子を寄せ合って、睦朗と善治を加えた四人で昼食である。睦朗が和泉の元へ行き、一緒に食べない?と誘うと、善治も一緒にと言われて三人で竜介が戻るのを待っていた。その間に和泉、竜介、善治が同じ中学出身であることを聞かされて、仲の良さに納得したのであった。
和泉もメロンパンを竜介から受け取り、睦朗は自分で握ったおにぎりを食べる。こんな風にパンを分け合うのも良いし、みんなの分もおにぎりを作ってくるのも良いかもしれないと密かに思いながら。
「須藤くんも二人と同じ中学だったんだね。」
「ノンノン!須藤くん、じゃなくて善ちゃんだろムツ!」
「あ、うん……。」
ちらり、と盗み見た善治は、竜介のいうことなど全く気にせずチョコクロワッサンの袋を開けていた。初対面で馴れ馴れしくし過ぎたと反省していたので、睦朗は本当にそんな風に呼んでいいのかと不安になっている。その視線に気がついた善治は、ふうっと軽く溜め息をついた。
「別にいいよ。」
「あ、ありがとう!」
リュウ、いっちゃん、善ちゃん、と心の中で唱えて自然と頬が緩む睦朗は、友達が増えた喜びと共におにぎりを噛みしめた。それは、いつもより断然美味しかった。
「あ、みんなは部活決めた?」
せっかく友達の輪に入れたのだから、何か話題を……と考えた結果、浮かんだのは決めかねていた部活動のことだった。中学は人数が少なくて半ば強制的に陸上部だったのだが、ここは東京、そんなことはもうありえない。沢山ある部活動の中からやってみたいことを探してみよう、と思っていたのだが、結局選択肢が増えた分だけ迷うことになってしまったのだ。
「俺は帰宅部だなぁ。予備校あるし。」
「えっ、いっちゃん学校終わってからも勉強するの……?!」
「なームツ、信じらんないよなー!俺は無理!」
「リュウはせめて授業だけでも頑張った方がいいと思うよ。」
「入試受かったのが不思議なくらいだからな。」
「善ちゃん、どうしてそう、当たりが厳しいの?俺にだけ。」
予備校。田舎にはない響き。もう何もかもが睦朗にとっては新鮮過ぎた。
「善治は?やっぱり帰宅部?」
「だな。」
「善ちゃん、身長あるくせして全っ然運動できないもんな!」
「そうなんだ、意外!なんでもできそうなのに。」
「リュウ、コロス。オモテデロ。」
ゆらり、と殺気を纏った善治は、中指を立てて竜介を睨みつけた。180cm近くある高身長でありながら、運動音痴のためその恵まれた体格は全く活かされないのが惜しまれる。
「リュウはどうするの?」
「いひゃい!ほっへはにゃしへ!……あー痛かった。あ、俺?まだ決めてない。一個に絞れないんだもん。」
善治につねられた頬をさすりながら、竜介は指折り数える。サッカー部、野球部、バスケ部、バレー部、陸上部、水泳部、テニス部、バドミントン部……。運動部を挙げたらキリがない。
「どれも楽しいからなー迷うよなー。」
「運動部は決定なんだね。」
「文化部は無理!体動かしたい!」
たしかに、竜介には運動部が向いていそうだと睦朗は内心納得した。何せ入学式の朝に一緒に走って、置いてけぼりにされたほどの俊足だ。
「難しいなぁ。見学してみようかなぁ……。」
「あぁ良いんじゃない?実際に活動見たら判断の材料にはなるし。」
「じゃあ俺も行くー!」
百聞は一見に如かず。
こうして、放課後の部活見学が決定したのだった。
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