ストーカーですが、なにか? | ナノ




セクハラ対策は万全を期すべし

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一線を越えてから、有木のスキンシップが異様に増した。
学校から帰れば出迎えられた玄関でキスを迫られ、ソファに座れば抱きつかれ、立ち上がればついてくる。何もなくても手をスリスリされたり、太ももに手を置かれたり、隙あらばキスをけしかけられ、全く気の休まる瞬間がない。
セクハラもいい加減にしてもらわないと、体がもたない。主に心臓の負担。触れられることに未だに慣れない俺が悪いのかもしれないけど。

対策をしよう、そうしよう。
思い立ってまず考えたのは、キスから身を守ることだ。あれが一番ダメージが大きい。デコだろうが、ほっぺだろうが、恥ずかしいもんは恥ずかしい。カマトトぶってるわけじゃないけど、18歳の誕生日にようやくファーストキスを迎えた俺には、刺激が強すぎる。

「苑、おかえり!」

この日もいつも通り、有木は玄関で俺を抱きしめ唇を奪おうとしていた。途中でその動きが泊まったのは、俺がマスクをしていたからだ。

「風邪ひいたの?」
「ひきかけ。すぐ治ると思う」

嘘です、超元気です。でも有木はみるみる青ざめていき、眉毛は八の字になってしまった。慌てた様子で俺を部屋の中に引きずり込むと、デコに手を当てて熱を確かめる。すまん、平熱だ。

「大丈夫?寒気とかない?」
「うん。別に」

マスクしてるだけだから。さすがに暑いけどな、まだ八月だし。俺の額にじんわりと滲む汗を、有木は手のひらでゆっくり拭いた。本気で心配している目だ。

「風邪はうつすと治るって」
「あぁ、よく言うよ、な!?」

有木は俺のマスクを剥ぎ取って、両頬をしっかりと手で挟み込んだ。しまった、これはまずい奴だ。マスクから解放されてスースーする鼻と唇は、あっという間に有木の餌食となった。

「んっ、んう……!」

ちゅ、ちゅ、と唇に吸いつかれる。息苦しくなって口を開けたら負けだ。なんとか鼻呼吸でやり過ごすんだ。頑張れ俺!頑張れ……!

「ん……っ、う…………はぁっ」

駄目だ!無理だった!
口を固く閉じようと力が入って、つい息も止めてしまう。結局苦しくなって、口が酸素を求めて開いた。べろべろと唇を舐め回していた舌は、容赦なく開いた口の中に侵入してくる。性急に俺の舌を絡め取り、抵抗する暇も与えない。まるで口腔内の全ての菌を滅してやると言わんばかりに、上顎も、頬の内側も、粘膜という粘膜を舐め取られた。うっかりして、擦れ合う舌が気持ちいいと思ってしまうくらい、念入りに。

「ふぁ……はあっ、ん……ぷは」
「風邪菌、僕に全部うつったかなぁ?」

ようやく口を離してもらえた頃には、よだれが顎を伝ってベタベタに濡れていた。それを有木は服の袖で拭う。

「…………逆に熱上がるわ」
「ええっ!?大丈夫?」

顔に一気に熱が集まる。だから、キスは駄目なんだって。
おろおろしながら俺を抱き締める有木の腕の中で、キスに対する免疫を高めるワクチンが欲しいと切に願うのであった。


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