ストーカーですが、なにか? | ナノ




6.変態の職業

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生温い夜風が髪をなびかせる。
それだけの風だけど、皮膚の上を滑るとじくじくと傷が痛む。

「いたた……ちょっと無茶しすぎたかな?」

痛みを鎮めたくて腕をさすったが、かえって痛むだけだった。鞭の扱い、慣れてない人だったなぁ。加減を知らないっていうのはなかなか辛い。
とかなんとか言って悦ぶ僕は、お気付きの通りドが付くマゾヒストだ。

「お疲れ様。大丈夫……?」
「うん、ありがとう」

迎えの車がホテルの前まで来ていた。僕が働くお店の車。接客が終わる時間に、僕たちを拾いに来てくれるのは、運転手の千。僕はせんちゃん、と呼んでる。

「せんちゃん、次は何時からだっけ?」
「今日はもう予約入ってないよ。乙木さんとこでご飯たべよ!」
「ほんと?良かった」

ちょっとこの状態では、また誰かの相手をするのはしんどい。全身鞭で打たれ、赤くなっている。背中、みみず腫れになってそうだなぁ。ヒリヒリする……。車のシートに寄りかかると、痛む。


「いらっしゃーい」

居酒屋御伽は、僕の働くバーのすぐ近くにあっていつもお世話になっている。店主の乙木さんはオーナーの知り合いで、僕はこの優しい人のおにぎりが好き。

「今日も随分と酷い傷をつけられてきたね。」
「ん、下手くそだった。」

する、と赤く腫れた頬を乙木さんの手が遠慮がちに撫ぜる。んんー、ちょっと痛い。

「おかえりー。お疲れ様ー」

奥から聞こえた声は、雇い主の藤井さんのものだった。

「オーナー、お店は?」
「那緒に任せてきた」

心配そうに尋ねるせんちゃんに、藤井さんはしれっと答えた。那緒さん、お気の毒様……。人手が少ないから大変だろうなぁ。

「そうそう、芽黒の予約あったよ」
「いつです?」

芽黒、という名を聞いてどくんと心臓が跳ねた。

「来週の金曜日。土日はそのまま休みでいいよ」
「2日で済めば良いんですけどね」

蛇沼芽黒は、この界隈では有名なドSだ。藤井さんの店では彼の要求に応えられるのは僕しかいないので、彼は僕の固定客になっている。

「前回は3日だったか」
「はい。拷問のような華麗な鞭捌きで最後に窒息させられました」
「うっとりした顔で言うなよ有木……」

今度は何をされるんだろうと、ちょっとだけドキドキ。もちろん、期待の方のドキドキ。


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