ストーカーですが、なにか? | ナノ




60.初夜の二人

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 有木に手を引かれ、寝室に入った。前に見たときと違うのは、壁に貼ってあったたくさんの写真がなくなっていたことくらいで、あとは変わらずシンプルな部屋だ。有木は明かりをつけなかった。オレンジ色の常夜灯が、ぼんやりと部屋を照らしていた。

「苑くん、おいでよ」

 ベッドに上がった有木が手招く。
 本当に、有木とするんだ、これから。
 恐る恐る有木の隣に座った。緊張のあまり、正座になっていた。

「怖い?」
「……別に、平気」
「嘘」

 膝の上に置いた握り拳を、有木の手が覆う。覗き込んでくる有木の顔が近い。

「平気だし」
「じゃあ服、脱ごうか」
「……」

 強がる俺ににっこり笑って、有木は躊躇なく上を脱ぎ出した。晒された痩身を思わず見つめていると、有木はまた笑った。

「なんか、恥ずかしいね」
「細い」
「苑くんは?」

 小首をかしげる有木に促されて、半ばヤケクソになってTシャツを脱ぎ捨てた。運動部でもないし、鍛えようとか思ったこともなくて、何の面白みもない体だ。少しくらい腹筋とかしとけば良かったかもしれない。

「きれい」
「どこが?」
「全部」

 有木の腕が首に絡みついて、ぎゅうっと抱き締められた。ああ、もう有木の方が背低いんだっけ。
 背中に手を回そうとしたら、有木の体重がぐぐっとのしかかってきて、すっかり油断していた俺は簡単に押し倒されてしまった。

「だいすき」

 顎から唇へかけて、有木の唇が辿ってくる。小さなリップ音が、静かな部屋に響いた。何度も重なる音と温度に、どんどん夢中になる。
 キスは鼻にも、頬にも、耳にも、首筋にも、どんどん落とされていった。汗をかいた肌に、躊躇いなく触れる唇は腕を伝い、手の甲や指の間まで辿る。ひとつひとつ、確かめるように。

「俺、汗臭くない?」
「いい匂い。興奮する」
「こ、興奮て……ちょ、待った!」

 あろうことか、有木は俺の足にまでキスし始めた。足の指先にちょんと触れた唇から、舌が覗く。嫌な予感。

「汚いから!」
「汚くない」
「汚くなくない!わ、こらっ、舐めるなぁ!」

 予感は当たってしまった。親指と人差し指の間を、ぬるりと舌で舐められた。そのままちゅうっと吸いつかれて、くすぐったさに身をよじる。危うく有木の顔を蹴飛ばすところだった。

「やめろって、ば…っ!」
「いや?」
「や!」

 有木は残念そうに舐めるのをやめた。その代わり、足の甲から足首へと、またキスが始まる。すね毛なんてまるで気にせず、向こう脛やふくらはぎも、膝の裏までもキスの餌食にされた。その先の部屋着のハーフパンツに隠れた太ももだって、裾から手が忍び込んできて、まくり上げられてキスされる。
 どうしよう、有木の顔がどんどん股間に近付いてくる。内ももを辿る唇が、ひときわ強く吸い付いた。
 ちょっとドキドキしたけど、有木は太ももから離れて、今度は手のひらで顔を包む。またキスが始まった。キス魔かよ。
くっついて、離れて、吸われて、何度も唇の感触を確かめるように求められる。そっと目を開けたら、夢中になってる有木の顔がぼんやり見えた。キスに応えながら、不思議とかわいいなんて思ってしまった。
 だんだん深くなるキスのせいで、息があがる。潜り込んでくる舌の感触に、心臓が跳ねた。自分のものではない温度が、敏感な部分に触れてきてゾクゾクする。上に下に重なり合って、唾液も吐息も混ざって、境目が曖昧になっていく。キスって気持ちいいかも。

 有木の手は、頬から外れて耳へ移り、くにくにと耳殻を揉んだ。くすぐったいような、心地いいような。
 真似をして有木の耳に触れると、指先にピアスの固い感触。多少なら触っても大丈夫だよな。恐る恐るピアスを辿っていくと、有木がぴくりと反応した。
 キスは止まらない。時々漏れてくる有木の声が聞こえる。つられて自分も声が出ていることには、気がつかないふりをした。ひたすら絡まり続ける舌の温度で、脳みそまで溶けそう。だから、有木の片手がゆっくり耳から肩へ、肩から胸へと滑っていくのも構いはしなかった。
 その手は俺の薄い胸板を撫でたあと、指の腹で突起を潰す。上下にゆっくり擦られ、あるいはくるくると優しく撫でられて、じわじわと熱を持つ。刺激を受けてツンと立ち上がったのを、今度は爪先で弾かれ、摘まれる。
 蕩けた思考は、そんな刺激を全て快感にしてしまう。

「ふぁ…っ、んん……あっ」

 やばいかも。気持ちいい。それしか考えられなくなってる。まさか、そんなとこで感じるなんて。
 有木にたっぷりと胸を弄られ、深いキスも与えられ続けて、快感が静かに全身を蝕んでいた。
 ひたひたとそれに身を沈めていたところへ、突然強い感覚が神経を走る。ズボン越しに中心をやわく揉まれたせいだった。形を探るように有木の指先が蠢く。

「ぁ…、う……!」

 思わず顔を逸らしても、有木は構わず首筋にキスをし続ける。もう俺の形を把握した指が、確かな快楽をもたらしていた。
 ぼんやりとした心地良さに浸っていた体は、すぐに反応する。中心に血液が集まって、固くなっているのが分かる。

「苑くん」

 耳元で吐息混じりに名前を囁かれる。それすらも性感に変わってしまう。そして、それが中心に触れる有木の指から伝わってしまうのが、堪らなく恥ずかしい。
 羞恥と快感がせめぎ合う中、有木の手がするりとズボンの中へ滑り込んできた。抵抗する余裕もない。さらに薄い布越しに触られて、ぞわぞわとした感覚が背中を這い上がってくる。

「苑くん……」

 耳たぶに吸いつかれた。そのまま耳の裏までゆっくりと舌が這ってくる。有木の吐息がくすぐったい。
 気を紛らわせようと、別の感覚を辿ろうとして、太ももに当たる固い感触に気がついた。もしかして、いや、もしかしなくてもこれは、有木の股間のアレ。今さらながら、有木が俺に性的な意味で興奮するんだと思い知る。身じろぎをすると、余計に固くなったそれを意識してしまい、結局恥ずかしさは紛らわせることができなかった。

「ッ!ぁ、りき……!」
「痛くしないから、ね?」

 優しく、でも有無を言わさず、有木の指が直接下着の中に触れた。さわさわと付け根を撫でて、それから芯を持った性器をやんわり握られる。下着から取り出されてゆるゆると上下に扱かれ、自分でするのと同じ動きのはずなのに、全然違うような感覚が腰を伝って頭まで響いた。
 そんな俺を、有木はじっと見つめている。こんな恥ずかしい姿、見られたくない。

「見るなよ……」
「全部見たいよ。苑くんの、全部」
「やだ」
「はは、困ったなぁ。じゃあちょっとだけ、体勢変えようね」

 そう言って俺を起こした有木は、俺と場所を入れ替わってヘッドボードに背中を預けて足を伸ばした。導かれるままに、有木に跨る格好で向かい合わせにされる。

「これなら、苑くんにしがみつかれたら見えなくなっちゃう」
「っ……!急に、触んな……」
「ごめんね」

 再び性器を握られて、ゆるく扱かれていた。反対の手が背中を押して、それに逆らわずに有木へもたれかかり、首に腕を巻き付ける。確かに、これなら顔も見られない。
 根元から先端へ向かって扱く有木の指は、決して力が入ってるわけではないのに、確実に快感を引き出してくる。ゆっくり擦り上げて、指先で竿と先端の境い目を掠めていく。自分の幼稚な自慰とは違う。かすかに上擦った声を含んで、熱い息が漏れた。

「苑くん、痛くない?」
「うん……」
「気持ちいい?」
「…………ん」

 ふふっ、と安心したように小さく笑った有木は、俺の頭を愛おしそうに撫でた。それから手は後頭部を滑り、背中を撫で下ろし、そのままズボンと下着を脱がせた。思わず息を呑む俺に、有木は「大丈夫だよ」と小さく囁く。
 露わになった尻が撫で回される。前を弄るのをやめて、両手で持ち上げられたり、寄せられたり、随分と楽しんでいるようだ。ただ、掴んで左右に広げるのはやめてほしい。だって、その……尻の穴が……。
 しばらく尻を堪能したあと、有木は腕を伸ばして、すぐ近くの机の上から何かを取った。背後でキャップを開けるような音が聞こえる。

「ちょっとひんやりするかも。ごめんね」
「な、なに?」
「痛くないように、ジェル使うから」
「えっ、うわ、ぬるってしたっ」

 謎のぬめりが、尻を襲った。有木の手によってゼリー状の何かが尻の割れ目に塗り付けられる。逃げようにも、この状態では逃げようがない。まさか、有木はこうなることを見越してこの体勢に……?
 ぬるぬると尻を滑る指は、少しずつ割れ目の奥へ侵入してくる。

「うぅ……っ」
「大丈夫だよ、触るだけ。痛くないよ」
「触られるのが……恥ずかしいんじゃん……」
「可愛い」

 しがみつく俺にちゅっとキスをしながら、指は後孔に触れた。すりすりとジェルを塗るように擦られる。絶対汚い、触るところじゃない。なのに有木はそっと、宥めるように撫で回した。
 どうしてそんなところを触られなくちゃいけないのか、一応分かってはいる。入れるから。なんとなく覚悟はしてたけど、本当に入るのか?

「有木……」
「うん?」
「…………」

 不安をどう伝えたらいいのかも分からない。ただ首に回した腕をきつくすることしかできず、黙っていた。
 そんな俺に、有木はまたキスをした。耳や首筋に優しく落とされる口付け。少し顔を引くと、有木と目が合った。そのまま引き寄せられるように唇が重なる。ただ触れ合っているだけの状態から、ついばみ、舌を絡めるキスになる。
 秘部に触れられている不安は、キスに夢中になることで少し薄れた。唾液がくちゅりと濡れた音を立てるのは、やっぱり恥ずかしいけど。
 何度も丁寧に撫で付けられた後孔は徐々に解れて、有木が少し押すと指先が沈み込んでくるようになった。舌が触れ合う感覚に頭がぽーっとしてきたところで、静かに指が中へ入ってくる。たぶん、ほんの爪の先くらい。それでも穴が広げられているのは、恥ずかしいし不安で堪らない。

「ぁ…、う……ぃゃ…っ」
「痛い?」
「んん……やだ」

 痛くないけど、でも怖いなんて言えない。ちゃんと有木を受け入れたいのに、気持ちも体もバラバラだ。よくこんなんで、何もしてくれないなんて言えたものだ。有木は高校卒業まで待つって言ったのに、俺が急かして。自分の愚かさが憎い。
 それでも有木は優しかった。

「気持ち悪いよね。慣れるまで、辛いかも」
「ごめ……」
「ううん。ゆっくり、ね」

 腰の辺りを撫でながら、小さい子をあやすみたいに有木が言う。
 少しずつ指が動かされる。時々広げるように円を描きながら、徐々に奥へ向かってくる。痛みよりも違和感が強かった。有木の細い指でさえも、中に直接触れられればはっきりと異物であると感じた。

「……指、奥まで入ったよ。痛くない?」

 進入は止まった。でも、引っ掻くように動いている。痛くはなかった。無言で小さく頷いた。有木はそれを見落とさずに「良かった」と呟いて、頬を擦り寄せた。

「奥より浅いとこの方がちょっとは気持ちいいと思うんだけど、動かしていい?」
「好きに、すればいい……」

 恥ずかしいから聞かないでほしい。気持ちいい所なんか分かんないよ。
 今はただひたすら違和感だけが強くあった。ずるずると指が引き抜かれて、言ったとおり浅い所を擦られる。ジェルのせいでぬるぬるする尻の中を、有木の指が掻き混ぜたり、やや強く押したりした。もう片方の手は、尻と腰をねっとりと撫で回している。
 穴が引きつる感覚もなくなるくらい弄られ、違和感にも慣れてきた頃には、もしかしてこの感じが気持ちいいってことなんじゃないかと錯覚し始めた。体は単純なようで、今気持ちいいかもしれないと思うと、すっかり萎れていた中心も少し鎌首をもたげてくる。有木は俺の様子をずっと窺っていて、そんな小さな変化も見逃さなかった。

「こっちも、触っていい?」
「ぁ……!」

 気持ちいいかも、が、気持ちいい、に変わる。人差し指と中指の間に挟まれ、しゅるしゅると扱かれて、あっという間に少し前までの興奮を思い出したそこが膨れ上がった。

「柔らかくなったね……指、増やしてもいい?」

 俺の返事はなくとも、指が追加される。また違和感が増したけど、それも一瞬の話だ。有木の言うとおりすっかり柔らかくなったそこは、ちゃんと二本の指を受け入れていた。 浅い場所を何度も指が往復していく。その度に、ぬぷぬぷと湿った音が聞こえる。
前の方もすっかり勃ち上がっていた。先端を指の腹で擦られて、強い刺激が背筋を駆け登る。
 気持ちいいのは、どっちを触られているからだ?二本の指が広げている後ろ?指の又に挟まれている前?分かるのは、どちらにせよ気持ちよさに声が漏れそうなこと。それを喉の奥で押し殺そうと、全身が強ばっていた。

「痛い?」

 無言で首を振る。有木の肩に、額を擦りつけるように。

「ちゃんと上手にできてるよ。ほら、奥まで入る……」
「ぅ……ッく、んぁ…!」
「えらいね、苑くん」

 深い所まで指が潜り込んできた。
 嘘みたいだ。初めてこんなとこ弄られて、こんな風に広げられてるのに、順応して。もしかして俺は、本当はいやらしい体だったのかもしれない。そんな本性が、有木の手によってこれから暴かれていくのが怖い。怖いくせに、快感はどんどん加速する。甘い痺れが、チリチリと全身を焦がしていく。

「ん…っ、う……!」
「可愛い……、声我慢してるの?」

 見透かされて、顔が熱くなる。絶対に声は出さないと決めた。悔し紛れだけど。

「僕はもう我慢の限界みたい。ごめんね」

 前を弄る手が離れた。その手は再びベッドサイドへ伸びて、何かを掴む。少し顔を上げると、その手にコンドームが収まっているのが見えた。挿れるんだ、の前に、男同士でもそれ使うんだと思ってしまった。
 有木は封を噛みちぎって開けた。慣れてるんだろう、片手で自分の性器を取り出してゴムを被せる手つきはもたつかなかった。

「ゆっくり、腰落として」

指が引き抜かれて、代わりに固い性器が当てられると、ジェルを更に穴と有木自身に追加して、酷な要求が与えられた。自分で、これを挿れろって?無茶振りにも程がある。

「ムリ」
「支えててあげるから大丈夫。自分のペースでいいよ、痛くないようにね」
「やっぱ、痛いの……?」
「充分柔らかくなってるから、そんなに痛くないと思うけど」

 ちょっとは痛いかもしれない、ってことかよ。
 躊躇ってなかなか腰を落とせずにいると、有木の切っ先がトントンと穴に当てられる。自分のペースでいいって言ったくせに!
 意を決して、ちょっとだけ腰を沈めてみる。有木が手で尻を広げているから、自然と穴も口を開けていて、有木の先端が埋まった。ジェルで滑りは良さそうだけど、本当にこれが入るのか?恐る恐る腰を落としていくと、指とはまた違った圧迫感に襲われる。

「はっ……うぅ…っ」
「ン……上手だね、そのまま続けて」

 結合部分をすりすり撫でて、有木は続きを促した。有木の大きさに開ききったそこは、ゆっくり固いものを呑み込んでいく。やっぱり痛いじゃん、有木の馬鹿。
 苦しさと少しの痛みとで目に涙を溜めながら、まだ入るのかと気が遠くなった。有木は時折キスを寄越したり、腰を撫でたりしながら、吐息混じりの声を漏らした。気持ちいいの?だったらちょっとは痛い思いしたのも報われるかも。

「全部、入ったよ……。よくできました」

 はは、褒められた。
 俺の頬に手を添えて顔を上げさせた有木は、唇に吸い付いた。上がった体温を口移しして、もっと熱が上がる。
 繋がったまま、しばらくキスに耽っていた。今日だけで一生分キスした気がする。明日唇が腫れてるかもしれない。でも、そんなことどうでも良くなるくらい、心地いい。後ろの痛みも忘れた。
 最後にちゅっと舌先を吸われて、唇が離れた。

「も、ずっとこのままで、いたい……」
「気持ちいい?」
「うん……苑くんの中、すごく、いい」

 有木は吐息混じりに呟いて、俺をぎゅっと抱き締めた。ずっと、って。入れっぱなしはちょっと辛いんですけど。
 幸いなことに、痛みはもうほとんどない。有木が丁寧に慣らしてくれたからだと思う。ぎちっと窮屈そうに収まった有木が、動いたらどうなるかは分からない。でも動かないと本当にずっと終わらないし。

「……動かないの?」
「動いたらすぐイッちゃう……もったいない……」
「貧乏性かよ」
「でも動きたい…………動いていい?」
「うん」
「痛かったらちゃんと言ってね」

 有木が俺を抱えると、体勢が一転した。また押し倒されたんだ、と有木の肩越しに天井を見た。
 膝の裏に手を差し込まれ、足を開かされる。うわ、全部丸見えじゃん。と思ったのも束の間、ずるずると中を引きずられる感覚に戦慄した。
 ギリギリまで抜かれかけたものが、今度はゆっくり中に戻ってくる。肉を抉られて、押し広げられる。

「ん…ッ、ぐ、ぅ……!」
「はあ…っ、あ……、苑くんのなかに、入ってるぅ……」

 繋がっている部分を見て、有木はうっとりしていた。奥まで埋めきると、また引き抜いて、肉の感触を楽しむようにじっくりと押し進む。
 痛くないわけじゃない。でも痛いって言う余裕がない。有木も興奮を隠さなくなってきた。浅く荒い呼吸に、眉を寄せた余裕のない表情、滴り落ちる汗。

「あ、はあ、苑、えん……きもちいい……」

 有木の声は、段々うわ言のようになる。
 痛みと熱さの境界が曖昧になっていく。押し込まれる苦しさは指先を伝い、シーツにしわを作った。
 本当に、いつかこれが気持ちよくなる日が来るのか?でも有木が気持ちよさそうだから、いいや。

「苑……いたい?いや?」
「へーき……っ、うぁ…」
「ごめん、ごめんね、きらいになっちゃ、いや……」

 有木の手が性器に伸ばされる。腰の動きは止めないまま、その手は俺を包み込んで慰めた。ゆっくり動く後ろに反して、手は小刻みに先端近くを擦り上げる。先走りが零れ、有木の指先がそれを亀頭に塗り付けた。

「んんッ!うあ……!」
「あ……苑、の中……ぎゅってなったぁ……」
「言う、な…っ!」

 人の痴態を喜びやがって。動いたらすぐイくとか言っておきながら、全然そんなことないし。
 抽挿は段々深い所で小刻みになっていき、時折奥でぐるっと円を描くように抉ってくる。圧迫感は消えないけれど、指先に与えられる快感に流される。いっぺんに色んな感覚が押し寄せてきて、何が何だか分からなくなってぐちゃぐちゃだ。

「はあ…っ、はぁ……、あっ、苑、すき……すきだよ……すき」

 徐々に律動は早くなり、前を扱く動きと同調し始めた。突かれる度に、有木の口から好きという言葉が漏れてくる。それは媚薬のように体を甘く痺れさせ、頭をぐずぐすに溶かした。痛いとか、苦しいとか、熱いとか、気持ちいいとか、全部ごちゃまぜになって、その中心に一つだけ、はっきりと分かるものがある。

「すき」

 自然と溢れた気持ちが、口から零れた。
 揺れる視界の真ん中を占める有木が、好きだ。
 ぽた、と雫が落ちてくる。有木の動きが鈍くなる。顔に向かって手を伸ばすと、また雫が落ちてきた。

「泣いてんの?」

 くしゃくしゃになった顔を撫でる。目から涙が零れて、手を濡らした。泣き虫だな、有木は。

「うれしい……すき。だいすき」

 ぐっと有木の顔が近付いて、抱き締められた。体が屈曲して、角度が深くなる。増した苦しさに思わず顔をしかめた。有木に見えなくて良かった。また泣いて謝り倒すかもしれないから。
 鎖骨や首筋に何度もキスをしながら、有木は好きと呟いてその跡を残した。その手の中にはまだ俺の中心が握られていて、指がゆるゆると絡められている。
 深い挿入に慣れた頃、また有木の腰が動き始めた。さっきまでより強く内壁を擦られ、背筋がゾクゾクする。前を弄られている気持ちよさとは違う、でも、気持ちいいかもしれない。知らない感覚に不安が募る。

「んっ……、ぅ…あ、……りき…っ」
「いたい?ごめん……っ」
「ちが…、あっ……!」

 一瞬、痛みとも快感ともつかない何かが、脳天を貫いた。体がびくんと大きく震えたのは、繋がっている有木には隠しようもない。

「もしかして、ここ、いい?」
「ッ!あ、や……っ!やだっ…!」
「んぁ……なか…っ、うねってる……」

 薄く笑った有木が、気持ちよさそうに中へ擦り付けてくる。その部分に当たる度、電流が走ったみたいに腰が跳ねた。体が勝手に動いて、制御できない。頭がおかしくなりそうだ。
 縋り付いても、有木は止まらなかった。快感を指に絡め取りながら、肉棒で中を抉る。有木の腕を掴む手に思わず力が入ってしまい、爪が皮膚に食い込んだ。

「はあっ……、はっ……、えん…っ!あ……ごめ…っ、いくぅ…!」
「ひ…!アッ、あ……!」

 ズン、と一際強く深く、突き上げられ、揺さぶられた。それが止まるまで、そう長くはかからなかった。
 有木は嬌声を上げて、短く震えた。イったんだ、俺の中で。息を整えながら、有木は俺の頬を撫でた。それはそれは愛おしそうに。

「苑くんも……イって……」

 もう後ろは動かされなかったけど、細い指が絡まると長いこと興奮状態にあった中心は、あっという間に射精へ導かれた。どくどくと溢れる白いものを、有木は手で受け止めると、満足そうにそれを眺める。
 そんなもの、さっさと拭いてしまえばいいのに、何を思ったか有木は汚れた手のひらを舐め始めた。

「馬鹿っ、汚いだろ!」
「おいひい……」

 美味しいわけがない。この味音痴め。
 残念ながら体に力が入らないせいで、腕を掴んでやめさせることもできない。結局、全部舐めとるのを見届けた。

「信じらんね……」
「えへへ、ずっと飲みたいと思ってたんだぁ」
「…………」

 驚愕の発言に、言葉も出ない。
 絶句していると、有木はゆっくりと俺から出ていった。ゴムの中に溜まったものを零さないように、丁寧に口を結んでティッシュに包み、ゴミ箱へ。どうして俺のもそうしてくれなかったのか。ああそうか飲みたかったんだっけ。意味わかんない。

「痛い?体、大丈夫?」

 ぐったりしている俺を心配して、有木が顔を覗き込む。尻がじんじんしてるし、まだどこかムズムズしている気がするけど、そんなことよりも疲労感がすごかった。

「つかれた、かも」
「頑張ったもんね。えらいえらい」
「俺は幼児か……」

 頭をぐしぐし撫でられた。有木は機嫌が良さそうだ。目を細めて、俺の耳を触ったり、頬を触ったり、まるで猫でも可愛がっているみたいにしてくる。

「ん……。やば、眠たくなってきたかも……」
「朝になったらシャワー浴びようね」

 有木は床に落ちたパンツを拾って、俺に履かせようとした。いやいやいや、自分で履けるし。でもまぁいいや。体、ダルいんだもん。甘えてもいいでしょ、頑張ったんだから。
大人しくパンツを履かされて、腕を引っ張ってもらって体を起こした。すかさずTシャツを被せられ、もぞもぞと袖を通す。有木もパンツと長袖Tシャツを着て、枕を整えて、足元にぐしゃっと丸まっていたタオルケットを広げた。ばさっと叩かれたときに、有木の匂いがした。

「おやすみなさい、苑くん」
「おやすみ」

 枕からも、有木の匂い。くっついた肩から、有木の温度。有木の部屋で、眠る。
 意識が遠ざかる中、最後に聞こえたのは有木の囁く声だった。

「大好きだよ」



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