ストーカーですが、なにか? | ナノ




57.盛夏の名物

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15:28 まる
誰かホラゲやろ

15:30 レータ→まる
オススメあるぞ

15:31 まる→レータ
マジ?てか一緒にやろ

15:33 レータ→まる
ありきとやれば?

15:34 ありき→レータ、まる
ぼくこわいのむり

15:35 まる→ありき、レータ
巻き込み事故w


「で、結果こうなります」

 夕方、苑くんが僕の部屋に来て、なぜかホラーゲームをすることになった。

「僕、ホラー苦手なんだけど、大丈夫かな?」
「俺も得意じゃない」
「じゃあなんでホラゲやろうとか……」
「夏といえばホラーみたいなとこあるじゃん。ま、肝試し的な?ホラゲ実況とか見るのは好きだから」

 とりあえず僕のパソコンを起動しながら、なるほど苑くんはホラゲ実況見るのは好き、と脳内メモ。言われたとおりにゲームタイトルを検索すると、すぐに目当てのものが出てきた。いかにも怖そうな、おどろおどろしい画像にビビり気味の僕に対して、苑くんは面白そうだとワクワクしていた。

「海とかリア充が行くところだし。暑い外より涼しい室内」
「苑くんって意外とインドア派だよね」
「運動得意じゃないし。あ、せっかくだから実況すっか」

 慣れた手つきでスマホとパソコンをちゃちゃっとセッティングして、動画投稿サイトを開き出した苑くん。さて、ゲーム実況なんかしたことないからどうしたらいいのか分からない。

「おっけー。んじゃ身バレしないようにアカウント名で呼んでな。まるとありきで」
「うん。まる、ね。まる。僕は何をしたらいいの?」
「あ、初めて?思ったこと喋っちゃっていいよ。こんな感じでゲームやってまーすって垂れ流すと思ってくれれば」
「分かった」

 僕と苑くんが仲良くゲームしてるところをインターネットで全世界に発信するって、イチャイチャの公開プレイだよね。ふふ。

「んじゃ、始めますかー」

 動画の配信が始まると、閲覧者の数字がぽこぽこと増えだした。緊張するなあ。こんなたくさんの人に見られてるんだ。

「あー、まるでーす。今日は隣にもう一人いるよ」
「あ、えと、ありきです。初めまして」

 ホラゲ実況するよ、とゲームタイトルを読み上げたら画面にはコメントが書き込まれていく。

「じゃあやりますか。これは……とりあえず面倒な操作ないやつか。ひたすらエンターと方向キーね。おけおけ」
「わぁ……タイトル画面が既に怖い」
「怖がるのはやすぎ」

 キーボードを操作しているのは苑くんで、僕はその隣にいるだけ。苑くんがキーを押すたびに、画面は左から右へ流れていく。主人公が歩いていって、景色が変わっていく感じで、確かにシンプルなゲームのようだ。

「えー、これ進んでいくともしかして幽霊がどっかに写りこんでるみたいなやつ?」
「ひぃぃ」
「あ?今のそう?窓ガラス」
「え?え?どこ?」
「ちょい待ち、戻ってみる。……あっほら」
「わーーーーー!!!!」
「ぶはっ!ビビりすぎ!サクサク進んでくぜ」
「ひえぇぇぇ駄目だよぉ」
「お、暗転?あ、次の日だって」
「毎日同じところ歩くの?」
「みたいだな。日を追うごとに怖くなってくんじゃね?」
「いや……っ、ここさっきのとこ……うわぁぁぁぁぁ」
「さっきよりハッキリ見えてんな」
「やだっこわいっ」
「ありきめっちゃくっついてくる」
「こわいよぉ……」
「まだまだこれから。はい、また次の日」
「ふえっ、また来る……っ、さっきの…………あれ、いなくなってる」
「あー、建物の外に出てきた感じ?」
「っああーーーーー!!」
「ほら来た後ろからー。つか、まじ耳元で叫ぶなし」
「やだぁ……っ、むり……!」
「この主人公、背中に幽霊ひっついてても気が付かないって霊感全くないよな」
「ふぇぇぇん」
「泣くなよ。はい、また次の日ー。つかもう取り憑かれてるよな?」
「や……っ、あ、だめ……!むりっ、むりぃ……!」
「はは!見てコメント。ありき喘いでる疑惑」
「だって!こわい!」
「背景ヤバい変わりようだわ。暗黒の世界だわ」
「う……あっ、だめ、そんな、そっち絶対危ないって」
「進む以外の選択肢がないから。……おわっ!?」
「アァーーーッ!」
「びっくりしたー。いや、ありきイッてないから。今思いっきり俺にしがみついてるよ」
「うっ、うっ、こわい……っ」
「鼻水拭くなよ」
「出てないよぉ……」
「ガチで泣いてんのかと思った。あ、続きもあるって」
「もうだめぇ……っ」
「これ何回まで続くの?…………5話もあるって。ありきやってみなよ」
「無理だよぉ」
「キーボード押すだけだって」
「やだよぅ。もうできないぃ」

 結局最後まで苑くんがプレイして、僕は必死に苑くんにしがみつきながら悲鳴をあげていた。
 コメントはいわゆる大草原状態で、僕が心底怖がっているのがウケたようだった。

「あー面白かった。有木が」
「うううー怖かった……」

 ホラー苦手だなんて嘘じゃないかってくらい、苑くんは冷静だった。ケラケラと僕のことを笑い飛ばして、楽しそうだ。

「本当にホラー苦手なの?」
「うん。でも自分よりビビってる奴が隣にいると結構平気なんだな」

 そういうものなのか。僕はまだ鳥肌が立っている腕をさすりながら、さっきから我慢していたトイレに行きたかった。行きたいんだけど……。

「苑くん、お願いが」
「ん?」
「一人で行くの怖いから、トイレついてきて……」
「ぶ!あはは!マジか!しょーがねーなー」

 まだ外は明るい時間だけど、一人では怖い。もしかして後ろにいたり?とか考えてしまう。今なら物音一つで心臓がひっくり返るくらいびっくりすると思う。
 苑くんは「だいじょーぶだいじょーぶ」と言いながらトイレの前まで一緒に来てくれた。本当は中にも入ってもらうか、ドアを開けっ放しにしたいくらいなんだけど、ここで待ってるからとドアを閉められてしまった。さっさと用を済ませて急いで出ると、苑くんは言った通りにすぐそこで待っていてくれた。

「俺も借りていい?」
「うん、どうぞ」

 そのまま苑くんは僕と入れ違いに、パタンとドアを閉めた。なんとなく僕もドアの外で待っていた。

「はぁ……どうしよ、録音したい」

 ドア一枚隔てた向こうから聞こえてくる、尿が便器へ落ちる音。すぐそこで苑くんが放尿してるんだと考えたら、さっきまでの恐怖心はどこかへ行ってしまい、代わりに興奮がやってくる。スマホはリビングに置いてきた。持ってくるべきだったと後悔しても遅い。
 ジャーと勢いよく水が流れる音がして、ドアが開いた。出てきた苑くんが、顔面を手で覆っている僕を見て「そんなに怖かった?」と腕をつついてきた。

「今さっき気がついたんだけど、俺今日家に独りなんだよね。風呂入るの怖いかも」

 リビングに戻ると、苑くんはやべーと呟いた。

「有木んとこ泊まってこーかなー、なんて」
「え!?えっ、あ、と、とま……っ!?」

 突然のお泊まり発言に、僕の興奮は最高潮。目が回りそうなほど嬉しい。冗談めかして笑う苑くんを抱きしめたい。

「ぼっ僕は全然構わないんだけどっ、あのっ」
「あ、でも、仕事あるよな」
「うっ、うっ、ごめん……」

 そうなんだ、夜は仕事があるんだ。盛り上がった気持ちが一気に萎む。藤井さんに連絡して休ませてもらうか、いっそ無断欠勤してしまおうか。いや、駄目だ。藤井さんを困らせるわせにもいかないし、お仕置きがあるかもしれない。夜ごはんが鯖の塩焼き定食(鯖抜き)とか。

「月曜日の夜は仕事休みなんだけど、今日は……。ほんとごめんね、お泊まり。お泊まり……」
「じゃあ、30日が月曜日なんだけど、泊まりに来ていい?」
「えっ!うん!本当?いいよ、嬉しい!やったぁ!」

 まさか苑くんからそんな提案が聞けるとは思ってもみなかった。夏休みってすごい。平日だけど、お泊まりが可能になるなんて!
ホラーゲームの恐怖は、もう影も形もなくなっていた。




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