ストーカーですが、なにか? | ナノ




*蚊帳の外側-乙木結人-

---------- ----------

「有木も成長してるんだね」
「体は大人になったかな」
「中身もちゃんと、変わってきてるよ?」
「うん、まぁ、少しずつはね。苑くんのおかげで」

 飼い主さんは、ちゃんと見てあげているみたい。

「セックスイコールお金だったのにねぇ。恋は人を変えるんだね」
「少しは真人間に近づけばいいんだけど。もっと真っ当な人生にしてやりたかったのに、俺じゃ力不足でね」
「今なら藤井も充分、その力あると思うよ」
「どうかな。自分自身が、真っ当かどうかって言われたら、多分違う」

 まともな大人になって、真っ当な人生を送りたい。藤井がずっと願ってきたこと。はじめに聞いたのはもう何年前になるのかな。僕達は高校生だった。

「有木を引き取ったのは、今の有木と同じくらいの歳だったね」
「若かったなあ。考え方まで若造で」
「実際若かったんだよ」
「ガキだった」

 身寄りを失くした有木を、施設に入れずに引き取ると言ったのは藤井だった。当時僕と藤井は一緒に住んでいて、ほんの少しの間だけ、三人で暮らしたことになる。いつか藤井のところから出ていくつもりだった僕は、それをきっかけに一人で暮らすことにした。皇くんと話すことが増えたのも、その時期だったかもしれない。

「初めて有木にごはん作ってあげたとき、なんて言ったか覚えてる?」
「うん、お金ないって」
「そ。泣きそうになりながら藤井を見て、ちーっさい声でお金ない、って」

 お店じゃないからお金はいらないよって言われても、少し不安そうだった。食べ終わったあと、こっそり僕のとこへ来て「カラダ、使う?」と聞いてきたのは、藤井にも言っていない。必要ないと言って髪を撫でたら、不思議そうな顔をした。有木にとって生きることは、そういうことだったのだ。何かを得るためには、お金か体を差し出さなくてはならない。

「お金を稼ぐ手段としか考えてなかったねえ。あるいはお金が払えない時の手段」
「セックス?」
「うん」
「今も大概そうだけどね」
「苑くんとのことは、違う風に考えてるみたいだよ」
「それは良かった」
「飼い主さんの躾かな?」
「さあね」

 とぼけてるけど、きっとお金じゃない性行為もあるってちゃんと教えてあげたに違いない。悩んだり、困ったり、迷ってる人を見たらほっとけない藤井だもの。

「優しいねえ」
「エゴイストなだけ」
「ふふふ」

 そのエゴに僕は救われたんだけどな。



[ 59/71 ]

[*prev] [next#]
[目次]
[しおりを挟む]



「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -