ストーカーですが、なにか? | ナノ




47.季節の変遷

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 春がきて、丸井苑は無事に進級できましたとさ。

「春……春ね。ほんと、いいね春って。おめでとさん」

 少々ぶっきらぼうな親友は春らしからぬ雰囲気だった。

「一足先に春きてたもんな苑は。なのに季節追いついちまったな。春休み、何してたって?」
「就職のための情報収集と勉強とゲーム」
「ありきとは?」
「ゲームと漫画回し読み」
「なんでだよ!進展なしかよ!」

 有木とは、遠回りをしてなんとか付き合うことになった。そのすぐ後に春休みを迎え、一応ちゃんと恋人らしく、毎日会ったりなんかして。

「毎日会ってて進捗ダメです、って何事?思春期だろ?するでしょフツー」
「するったって、何を」
「何を?ナニをだよバーカ」
「馬鹿っていうな」

 お隣さんなんだから、毎日会うのは容易かった。今までさんざん呟くサイトで共通の趣味を見出していたせいで、ゲームも漫画もアニメも二人で笑い転げながら楽しんだ。進展してるじゃん。ちょっとだけでも。二人で何かを、ってドーナツ食べに行った時くらいだったもんよ。それに比べたら今の方がよっぽど距離は近づいた。

「そりゃあな、超奥手の苑くんがな、毎日恋人と一緒に過ごしたっつうのはエラいと思うけどな?そんならもっとやれることあっただろうがよ」
「まぁずーっと有木んちで遊んだだけだからなー。外出ても良かったかなー」
「ちっげえよ!家で二人きりの状況!相手は大人!」
「やっぱ自分で稼いでる大人は、その金ダイレクトに趣味に反映するから充実してた」
「お、お、ば、か」

 呆れて物も言えなくなった玲汰は、ガクッと項垂れた。言わんとしているところはよく分かっている。分かっている上で、わざと回避している。だって恥ずかしい。

「手、繋いだ?」
「いや」
「キスとかした?」
「いいや」
「馬鹿。ウブ。中学生」
「るせー。そんな雰囲気にもならんかったわボケ」
「雰囲気くらい作れや」

 作るってどうやって。有木だって楽しそうだったし、なんなら耳にタコができるくらい「好き」と「幸せ」って聞こえてきたわ。それで何の問題が?無理矢理そんな展開に持っていかなくたって、いずれそんな雰囲気になるさ。たぶん。それに有木は大人だし、そういうのは任せたい。甘えっちゃ甘え。でも大人に甘えることくらい許されるはず。

「それに宮が帰ってきてたから、ちょっとバタバタしてたし。」
「え、宮帰ってきてたの?んだよ教えてくれよぉ!遊びたかったわー」

 宮は私立の全寮制高校に通う、双子の弟。中学までは俺らと一緒だったし、玲汰ともよくつるんでた。双子のはずなのに、俺よりやや顔面も頭も偏差値が高い。解せぬ。

「宮には言った?」
「有木のこと?いーや言ってない」
「正解だな。絶対怒るだろー」

 宮のブラコンっぷりは兄貴に勝るとも劣らぬ凄まじいもので、高校が別々になるって決まったときなんかせっかく受かった難関私立を蹴って俺と同じ高校に行くと言って聞かなかった。本当は俺も宮と同じ私立に行くはずが、落ちてしまったのだから俺が悪かった。
 そんな宮に、彼氏ができましたーなんて報告した日には、有木の身に危険が迫るだろう。くわばらくわばら。同じ理由で兄貴にも言えていない。そもそも、男どうしで付き合うなんて、家族には言えるはずもなく、玲汰にしか打ち明けられていないのが現状だ。
 こりゃ俺の安寧を祈らずにはいられないな、と密かに溜め息をついた。




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