ストーカーですが、なにか? | ナノ




*蚊帳の外側-新山信之-

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 有木さんが「いいこ」とか「優しい」とか「かわいい」とか言いまくってるから、どんな純粋純朴真面目天使かと思ったら、めっちゃ普通の男子だった。これが丸井苑の第一印象。

「ねーオーナー。有木さん戻ってこないよー?」
「んー。大事な話してると思うから許してやって」

 大事な話ねぇ。オーナーは本当、有木さんに甘いんだから。いや、誰にでも甘いかも。

「有木さんとオトナリサンって付き合ってるの?」
「今まさにその瀬戸際なんじゃないの」
「えっ、大事な話って告白?告白?」

 どっちがだろう。有木さんが好き好き言ってるから、有木さんが告白すんのかなー。うちの店は恋愛禁止とかないけど、恋人持ちって誰もいないんだよな。千ちゃんはオーナーにくっついてるけど、飼い猫みたいだし。那緒さんはスーパードライっぽくて恋愛とか興味なさそうだし。オーナーはいてもおかしくなさそうだけど、絶対ばれないように上手く隠しそう。

「もしかして有木さん、リア充になっちゃうー?」
「賭ける?有木が振られるか、付き合えるか」
「楽しそう!俺は振られるほうね!」
「那緒は?」
「……フラれろ、ってことで」
「お前ら冷たいねぇ」
「僕は成功を祈ってるよ!」
「千だけだな、優しいのは」

 煙草をぷかぷかさせながら、オーナーだって愉快そうにニヤついてる。だいたい、賭けるとか言い出すんだから絶対に面白がってるよ。

「じゃあ俺は成功に賭けてやろう。さ、私語はおしまいにして仕事戻んな」

 狭い店内にはそんなに多くはないけどお客さんがいる。千ちゃんはさっと奥に引っ込んでいったし、那緒さんはまた接客に戻り、俺はそのまま電話番。いいかげんカクテルの作り方くらい教えてくれたっていいのに、オーナーは「未成年だから駄目」と言っている。ちなみに有木さんはド下手糞だから、シェイカーすら持たせてもらえないらしい。実質バーを動かしてるのはオーナーと那緒さんだ。那緒さんに至っては裏稼業までこなすもんだから、働き過ぎじゃないかと思う。

「ふ、藤井さん、あの……」
「ああ、おかえり」 

 有木さんがようやく戻ってきた。けど、あれ、泣いたみたいだ。これはひょっとすると、賭けに勝ったかも。那緒さんを見ると目が合って、やっぱり同じことを考えたらしい。

「苑くんを駅まで送ってきても良いですか?」
「いいよ。行っておいで」

 ヨシヨシとオーナーが有木さんを撫でた。こうすると大体有木さんはふにゃっと笑うんだ。さて、賭けはどっちの勝ちだろう。

「苑くんとはうまくいきそうか?」
「へへ。恋人候補になってくれました」
「そうか、良かったな。じゃあちゃんと送ってこいよ」
「はい」

 ぽわぽわーっとしたまま、有木さんはまた裏口へと引き返していった。後に残った俺たちは、顔を見合わせてぽかんとしてしまった。

「恋人候補?」
「半端……」
「賭けは全員負けだなぁ」

 うわぁ釈然としない。なんなの恋人候補って。それ、キープにされただけじゃない?恋人にも友達にも転ぶ可能性があるじゃん。そんなんでよく喜べるなー。

「っていうか、告白して候補止まりってことは振られたも同然じゃない?少なくとも成功はしてないから、賭けは俺と那緒さんの勝ちじゃない?」
「うわうわ、ノブがやらしいこと言い始めた」
「オーナーの負けじゃない?ね、那緒さん」
「一理ある」
「あーあ。那緒までそういうこと言うのか」

 やれやれ、と肩をすくめながらもやっぱり愉快そうに笑っているオーナーは、仕方ないなーと言ってまた煙草に火をつける。

「じゃあ今日は仕事上がったら乙木さんのとこで飯奢ってやるよ」
「うえーい!タダ飯!ごちでーす!」

 きっとみんなでごはん食べながら、有木さんに質問責め大会だ。楽しみ。


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