ストーカーですが、なにか? | ナノ




35.恋心を告白

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 最初に話し掛けてきたのは君の方だった。仕事で朝帰りの僕に、登校する君が「おはようございます」と挨拶をしてくれた。中学に上がったばかりの君だった。その頃はご近所付き合いなんてものはなくて、どうして君が僕に挨拶をするのかが理解できなくて、僕はそれに言葉を返すことはしなかった。数回しか会ったことのない隣人の子供が、僕みたいないかにも怪しげな男に挨拶するなんて、不思議でしょうがなかったんだ。
 それでも君はすれ違うたびに「おはようございます」や「こんにちは」を僕に言っていた。家族でもない、親戚でもない、友達でもない、学校の教師や仕事先の人でもない、ただの赤の他人が、こんな僕に挨拶をし続けたのは初めてだった。晴れでも雨でも季節が変わっても、君の挨拶は変わらず続いて、僕はちょっとした気まぐれである日唐突に挨拶を返してみた。と言っても、ごく短く小さな声で「おはよう」と零しただけだった。
 君は最初驚いて、すぐに笑顔になった。そして「良かった、しゃべれんだね」と言って嬉しそうに登校していった。

 僕の声を聞いて喜ばれるのは初めてだった。そして混乱した。仕事もお金も絡まないのに、そんな風に接してくれる人は今までいなかった。もちろん、君はただ当たり前の礼儀として挨拶をしているだけだったんだろう。次の日も、その次の日も、君はやっぱり僕に挨拶をしてきて、僕は戸惑いつつ同じ言葉を返した。繰り返すうちに僕は慣れたし、君も慣れた。
 ただ、君のことがどうしても気になって、僕はたまたま知った君の帰宅時間にベランダで煙草を吸うことにした。何度目かで気がついた君は会釈をしてくれた。そして、すれ違ったときの挨拶とベランダからの挨拶が日課になった。

 僕に『ただの普通の人』として接してくれたのは君だけだった。君がいる瞬間だけは、僕は普通の人でいられた気がしていたんだ。何も知らない君は僕にとても優しかったし、その優しさに僕は救われてた。きっと君は優しくしているつもりではなくて、他の人に対するのと同じ態度で僕に接していただけだと思う。それが僕にとっては嬉しいことだった。
 たった一言の挨拶を交わすだけでも良かったのに、もっと君を知りたくなった。知れば知るほど君が好きになっていった。ただ僕はどうしようもない屑だから、近づき過ぎてはいけなかった。君が少しでも僕を知ることで嫌悪感を抱いたりして、僕から離れていくことが恐かったんだ。君と親しくなるほど恐怖は大きくなって、そして自分が今どれだけ幸せなのかを実感させられた。十分なはずだった。

 でも、どんどん君を好きになって、もっと君に近づきたくなってしまった。もっと君のいろんな顔を見たい、もっと君の声を聞きたい、もっと君のそばにいたい、もっと僕だけが知る君を見つけたい。許されるなら、僕は、君を好きでいたいし、君に好かれたい。

 隣人じゃなくて、恋人になりたい。




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