ストーカーですが、なにか? | ナノ




*蚊帳の外側-藤井風路-

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 有木が転がり込んできた。別に、初めてじゃないから驚きもしない。久しぶりに同居人ができて、それがまた有木なだけだ。
 どうやら苑くんと痴話喧嘩でもしたらしい。この世の終わりみたいな悲愴な面持ちをして、財布忘れて、魂抜けた状態でやってきた。大人になっても、手がかかるのは変わらない。話を聞いて、飯を食わせて、寝かしつける。子守りも同然、なんて思いながら世話を焼くのは、もはや染みついた習慣みたいなものか。

「……眠れなさそうだな」

 仰向けに寝そべった隣に、胎児のように小さく丸くなった有木がくっついている。セミダブルのベッドに成人男性二人は狭い。もっとも、広い所で寝ても有木はくっついてくるだろうが。
 甘えるように額を肩に押し付けて擦り寄る有木からは、寝息が聞こえてこない。時折、もそもそと動いては長い息を吐き出している。

「眠れません」
「子守唄でも歌ってやろうか」

 冗談を言いながら体を有木の方へ向けると、すぐに抱きつかれた。よっぽど甘えたいらしい。胸元に顔を埋めた有木の髪を指に絡め取って弄んでいると、くすぐったそうに身じろぎする。

「風路さん……」

 下の名前を呼ぶのは限られた時だけ、と躾けてきた。

「したい?」
「ん……したい、です」

 髪を弄るのをやめて、少し体を離して有木の顔を覗き込んだ。泣きそうな、切羽詰まった顔。また苑くんのことでも考えて、悲しくなっていたんだろう。馬鹿だなぁ。

「仕事がない日くらい、休めておけば良いのに」

 笑ってそう言いながらも、俺の手はちゃんと下着の中に潜り込んで、有木のものを取り出し握っている。やんわりと手のひらの中に収めて、緩やかに刺激を与えるとすぐに反応は表れた。もう10年以上も前に覚えたこれは、条件反射めいたものになっているらしい。

「有木はさぁ、苑くんとこういうことするの考えたりした?」

 横たわって向き合った状態ではしづらくて、体勢を変えて有木を組み敷く格好でまた手を動かす。質問に対して、有木は首を横に振って答えた。意外なことに、苑くんに性欲を向けることはしなかったらしい。弱いところを責めながら少し扱いただけで、こんなになるくせに。

「苑くんのこと考えながら、ひとりで抜いたりしないんだ」
「し、ません……」
「なんで?」
「……」

 黙った。答えたくない、というよりは言葉を探しあぐねている。下半身に意識がいってしまっている。まったく、もう果てそうだとか早いにもほどがある。こんな早漏に育てた覚えはないんだが。

「答えないと続きしない」
「っ……わかんな、くて」
「分からない、は禁止」

 くるりと指で先端を撫でながら、それ以上はしてやらない。泣きそうな有木は必死に言葉を探している。聞かれたことには答える、という躾はどうやら体に染みついているようだ。

「仕事の……お客さんじゃ、ないから、苑くんでそういうことしちゃ、いけないんです」
「あー。はは。なるほど」

 他人の性欲処理を生きる術にしてきたこのお馬鹿さんは、愛情表現としての性行為を知らない。だからこんな答えしか導けないんだろう。

「これは俺の教育ミスだな」
「え?っあ、んん……っ!」

 答えられたご褒美に、慰めを再開した。何度施したか分からないその処理。後ろもしてやればもっと悦ぶのは知っているが、そうするまでもなく絶頂を迎えそうだ。有木は腕を掴んできて快感を訴えている。

「あっ……ア!ふうじ、さ、っ……!」
「苑くんのこと、好き?」
「や……っ、いま、だめ……!」
「苑くんのこと考えてごらん。こんな風になってるところ、見られてるの想像してみて」
「い、やだっ……、あッ!ぅあ……あああ!」

 嫌がりながらも果てた有木は、泣いていた。手に吐き出されたものを丁寧にティッシュで拭き取って、服を元に戻してやっても、まだめそめそしている。よっぽど効果的な苛めだったようだ。

「まだ泣いてるのか」
「……だって、嫌だって言ったのに」
「でも苑くんのこと考えながらイッたの、めちゃくちゃ気持ちよかっただろう?」
「うぅ……ん。苑くんは、お客さんじゃないから、駄目です」
「つくづく馬鹿だなぁ」

 恋を教えなかった。自分自身から抜け落ちたことだから、すっかり忘れていたのだ。これを機に今から覚えればいい。俺と同じ道を辿る必要はないのだから。

「ばかだなぁ」

 目尻から溢れる雫を指で拭い、眠りに落ちるまでは抱き締めていてやろうと有木の肩をそっと引き寄せた。




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