28.親睦や友好
---------- ----------
もやん、もやん。
今頭の中はこの状態。靄がかかって答えが見えなくて何も掴めるものもない。
レータくんに漫画本を貸してからここ数日、僕は何も変わらず苑くんのストーカー……もとい、ご近所付き合いを続けている。ただし脳内は「苑くんと仲良くする」ということについてひたすら堂々巡りを繰り返していた。
仲の良い友人、というものがいた試しがない僕は、一般的な友達や仲良しの基準が分からない。サイト上ではたぶん普通のよく絡む人とか安定枠とか、そういう部類なんだろうけど、現実でそういう仲良しさんはどうしているんだろう。
「ノブくんは仲の良いお友達いるの?」
「えー?そりゃ何人かはいますよ?休みの日に遊んだりとかするようなのは」
「那緒さん、仲良い友達っています?」
「……まぁ。いるけど」
「千ちゃんは仲良しのお友達いる?」
「うん!あのねー、この前可愛い猫さんとお友達になったよ」
みんな誰かしらいるんだなぁ、と聞いてみて分かった。休日に遊んだり、よく会うと、仲良しさんらしい。それは猫においても同じようだ。
苑くんとはよく会うし(お隣さんだもの)、日曜日に一緒にお出かけした。じゃあきっと、苑くんと僕は「仲良し」なのかな。
「藤井さん、僕は、苑くんと仲良しでしょうか」
「藪から棒に、どうした」
仕事が終わって、乙木さんのところでもはや夜食か朝食か分からない食事をとりながら、藤井さんにも聞いてみた。
「苑くんが、遠慮しないで仲良くしようって言ってくれたんです」
「へぇ。良かったじゃないか」
「仲良くするって、何をしたら仲良くしてることになるんですか?」
ズズ、とお茶漬けをすすった藤井さんが箸を置きながら溜め息を吐いた。僕はなにか、呆れさせるようなことを言ってしまったんだろうか。藤井さんは頬杖をついて僕を見た。
「そんなの、お互いが仲良しだと思ったら仲良しだろう」
頬杖にしていない方の手がにゅっと伸びてきて、僕の頬をつねった。痛くはない、優しい所作だった。藤井さんの表情も、優しかった。
「有木はどう思う?」
その問いかけはここ数日間に自問自答し続けたものと同じで、それでも以前よりは答えの輪郭が幾分見えるような気がした。
「お隣さんから仲良しさんになれたなら、嬉しいです」
「うん。それならそれでいいんだよ」
つねられた頬を、今度は撫でられた。するすると滑る藤井さんの手が、僕を安心させてくれる。そうか、これでいいんだ。藤井さんが言うから間違いない。
「今日は久々にお前の部屋に行こうかな」
「あまり綺麗にしてないです」
「まぁいいさ」
今日はゆっくり眠れそうだ。
[ 29/71 ][*prev] [next#]
[目次]
[しおりを挟む]