ストーカーですが、なにか? | ナノ




27.隣人か友人

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 昼間起きた頃、ツイッターにダイレクトメッセージが届いていた。先日偶然会った、苑くんのリア友レータくんだった。遠慮がちに「こないだの話なんだけど…」と切り出されたのは、サイトでも話題に上った漫画本のことで、特に断る理由もないし貸してあげることにした。どうやら学校帰りに立ち寄ってくれるらしい。きっと苑くんと一緒だろう。そしたら苑くんの顔を近くで見られる。ちょっとくらいお話できるかもしれない。ドーナツを食べに行った日以来、サイト上でのやりとりとすれ違った時のあいさつ程度しか言葉を交わしていなかったから、本来の目的よりもそっちの方が楽しみでそわそわしていた。

 ベランダで煙草を吸っていると、案の定苑くんはレータくんと一緒に帰ってきた。いつもどおり苑くんに向かって手を振ったけれど、彼の表情は明るくはなかった。どうしたんだろう、気になるなぁ。
 呼び鈴が来客を告げたので、僕はいそいそと玄関へ向かったのだけれどそこには苑くんの姿はなくて、レータくんには申し訳ないけれど内心ちょっとがっかりしてしまった。もしかしたら疲れているとか、体調が良くないのかもしれないなんて考えながら、約束の漫画本をレータくんへ引き渡すと、彼はニヤリと笑って僕を見ていた。

「ありきさ、苑がいなくて残念!って思ったでしょ」

 どうやら顔に出ていたらしい。こんな態度では、レータくんの気分を害したかもしれない。苑くんの親友に対して、僕は大変失礼なことをしてしまったのだ。これじゃあ苑くんに会わせる顔もない……。

「そんな風に見えてたらごめんね。気を悪くさせちゃって」
「いや、気にしてないよ?ただ苑と仲良いんだなぁって思っただけ」

 レータくんは僕の心配をあっさり笑い飛ばした。ああ、苑くんの友達も心が広いんだなぁ。なんてしみじみと思っていた僕に、予想していなかった言葉が降ってくる。

「でも苑の親友ポジは俺のもんだから、いくらありきでもそこは譲らないかんね」

 笑っている目の奥は真剣だった。そうか、苑くんに近づきすぎるな、と釘を刺されているんだこれは。青み掛かった眼鏡の縁の向こうで、彼の目はどこまでも真っ直ぐに僕を捉えていて、そのストレートさがそのまま苑くんとの友情の強さを表しているようだった。

「僕は決して君と同じ場所に立つことはできないから、大丈夫だよ」

 淡々と告げた言葉は慰めでも気休めでもなく、まぎれもない事実。
 レータくんは今までもこれからも「親友」という眩しい響きの中で苑くんとの関係を築いていく。じゃあ僕は?

「返す時、また連絡する。じゃーね」
「うん。またね」

 僕の言葉に納得したかは定かではないけれど、レータくんはそれきり何も聞かずに踵を返した。

 僕は苑くんの親友になりたいわけじゃない。たしかに彼らの親密さは少し羨ましくもあるけれど、じゃあ僕が同じようにそこにいたいかと言われるとどこかしっくりこない。
 今くらいの曖昧な関係で、ちょうどいいんだと思う。近づきすぎたらいけない。今だって充分すぎるほど幸せだと、何度も言い聞かせている。ああ、そうだ、苑くんは仲良くなっていいって言ってくれたんだっけ。仲良くって、どこまで?

 苑くんの「仲良し」は、どこからどこまで?


17:23 ありき
お仕事、がんばってきます。微妙に体調不良。離脱。


 調子が悪い。頭の悪い僕には、難しすぎる問題だ。

 


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