ストーカーですが、なにか? | ナノ




*蚊帳の外側-廣嶋千-

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 店舗奥の小さな事務室で昨日分の売上を帳簿に写し終えて、手を止めた。店の方で話し声がする。有木くんが出勤してきたらしい。

 しばらくするとオーナーがやってきて、僕の隣に座った。煙草を取り出し火をつけて咥える。灯る火と燻る煙を見つめているのが、僕は好き。

「有木が苑くんとドーナツ食べに行くんだって。日曜日」

 オーナーはそう言うと、椅子の背もたれをギシギシいわせながら船を漕ぐ。ああ、ちょっと寂しいんだな、となんとなく察した。

「ようやく普通のことさせてやれた気がする」

 随分と前から保護者として有木くんを可愛がってきたこの人は、自分で認識しているよりずっと有木くんに依存されているし依存している。しかし有木くんのそれは依存というか被支配に近い。オーナーが全て。そういう感じ。

 それがここ最近は、お隣の苑くんの登場により世界が広がりつつある。盲目的なのは相変わらずだけど、色々な変化がある。
 オーナー自身、それを嬉しく思っているのは確かだ。反面、自分から離れていく寂しさもあるんだろう。

「有木くんは風路くん無しじゃまともな人付き合いできませんから、もう少し見守ってあげなくちゃいけませんけどね」

 帳簿を閉じてオーナーの顔を覗き込むと、いつもの大人びた笑顔だった。紫煙を吐き出しながら「そうだな」とちょっと嬉しそうに言うと、僕の後頭部に手を回してくしゃくしゃと髪を弄ぶ。

「千、髪伸びた?」
「伸びました」
「切りたいか?」
「このまま伸ばしても良いかなって思ってます」
「あんまり可愛らしくなると変な虫がつくからなぁ。お父さんとしては心配だなぁ」
「どうせその虫、全部叩き潰しちゃうんですよね?」
「勿論」

 ぎゅ、と煙草の火を灰皿に押し付けて、オーナーは立ち上がった。

「さぁて。有木がひとりでフロアのモップ掛け頑張ってるから、そろそろ戻るか」

 飼い主さんは、今日も忙しい。



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