17.集中が限界
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さて、来週からテスト。この週末は身を入れて勉学に励む!と、思った矢先に。
「ただいま!久しぶり!お兄ちゃんが帰って来たぞ!」
兄貴が帰って来た。
ちょうどリビングへ飲み物を取りに部屋から出てきたところだった。
バーン、と玄関のドアを開けて登場した兄の皇は、俺を見るなり満面の笑みで両手を広げて「さあおいで」と言わんばかりの体勢だ。
「あー、うん。おかえり。仕事おつかれ」
ぺちっと右手でハイタッチをしてリビングへ行くと、その後ろを兄はついてくる。
「なぁ、何日か振りに帰ってきた兄と熱い抱擁は?」
「ハイタッチしたじゃんか」
「それだけ?」
「じゃあ左も。ハイ」
「ハイッ」
ぺちっと今度は左手でハイタッチすると「そうじゃなくて!!」と兄が頭を抱えていたが、それには構わずペットボトルの飲料を冷蔵庫から取り出して、部屋へ逃げるようにして滑り込んだ。
パタンと閉めた扉の向こう側で、多分兄が寂しがっているのだろうが、ごめんよ俺はテスト勉強という名の怪物と戦わねばならない。
ところが、これくらいで挫けないのが兄の良いところで悪いところだ。
数分後、コンコン、とノックの後に部屋のドアが開いて隙間から兄が覗いてきた。手にはスナック菓子が。俺の大好きなポテチが。
「苑、これでも食べて休憩しようか!」
兄よ、貴様は悪魔か。
とか思いながら、ポテチに釣られる。兄は嬉々としておしゃべりしている。
歳の離れた社会人の兄は既に家を出て一人暮らしをしていて、時々こうして帰ってくる。たまに会う時くらいは、まぁこんなふうに話しするのも悪くないよな…。
なんて思って、兄の相手をしていたら休憩どころじゃない時間が過ぎていたわけで。
「兄貴、俺勉強するから……」
「俺に手伝って欲しいと?」
「違う、邪魔すんな出てけ」
「オォ……」
残念そうに部屋を出ていった背中はちょっと可哀想だが、俺の成績がかかってんだ許せ兄よ。
しかし、その後も一時間おきに兄は部屋へやってきては、やれジュースの差し入れだの夕飯の相談だのと言ってくるものだから、どうにも集中が続かない。
「……全然進まん」
14:38 まる
兄貴が邪魔してテス勉はかどらねぇ…!
14:39 ありき→まる
勉強おつかれさまー。お兄さん帰って来てるんだ!仲良い?
14:41 まる→ありき
んーまぁ良いほう。でも勉強できん。めっさ話しかけてくる…。
ツイッター呟くとやっぱりありきが反応してきて、そうか昼間だからまだ隣の部屋に居るんだ、と今更ながら思った。
ヴヴヴ、と机の上でスマホが震える。アカウントにダイレクトメッセージが届いた通知だった。普段はあまり使わないんだけど。
送り主はありきだった。
〈良かったら、僕の部屋に来ませんか?〉
そこには短く綴られた言葉。決して悪くないお誘い。
図書館は遠い。他に静かに勉強できる場所を知らない。夕食まではまだ時間がある。
〈今から行ってもいい?〉
隣人の反応は如何に。
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