11.生傷の程度
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千さんが部屋までありきを運んでくれた。
俺がやろうとしたら、ありきはそれを拒んだ。ありきに拒否をくらったのは、これが初めてだった。
すっげぇイラッとする。
なんだよ。ネットでだって苑くん苑くんっていっつも話しかけてきて、リアルでも毎日のようにベランダから手振ってきたり、すれ違うたびに話しかけてくるくせに。
千さんはありきを部屋まで連れて行き、ベッドに寝かせた。着替えを手伝おうとしたら、これまた拒否。
「君に知られたことが、よっぽどこたえたみたい」
苦笑する千さんがそう言ってくれた。大した慰めにはならなかった。
「じゃあ、有木をよろしくね。何かあったら、ここに連絡してください」
差し出されたのは名刺サイズのカード。店の名前と電話番号なんかが書いてあった。これが、ありきの働く店。
自分の部屋に戻って、そのカードを眺めた。
バー、って書いてるけど嘘だろ。バーの店員が身体売るわけないじゃん。
店の名前を見るに、店長は藤井さんって人。千さんもここで働いてるんだろう。住所が書いてあったから、ネットで検索してみた。場所はあの居酒屋さん(御伽だっけ)のすぐ近くだ。
色々ネットで情報を拾って行くと、どうやらあの辺りはゲイが集まるスポットらしい。店とかほぼゲイバーとかなんとか。俺、そんな所に一人で行ったのか……知らないって怖い。
じゃあ、ありきも男相手に、身体売ってあんな傷つけられたのかな。
悪寒が走った。オトコ同士ってどうやるの。あまり考えたくない。
「てことは、ありきもゲイ……？」
なんか、ありきがゲイでもあまり気持ち悪くはないな。むしろ女の人とくっついてる姿が想像できない。
ていうか、俺以外の人と話してるの始めて見たよな、今日。もちろん、ネット上では他の人とやりとりしてるけど、現実で誰かと挨拶したりとか会話してるのは見たことない。そもそも外でほとんど見かけない。たぶん、仕事以外では滅多に外に出てないと思う。そんなありきが、俺に積極的に声を掛けてきたのはなせだろう。まぁ、今は完全に拒絶されてるんだけども。
このイライラをツイッターで少しだけぶちまけた。「ムシャクシャする！寝る！」とだけ投稿すると、いくつかの「おやすみ」の挨拶を貰った。
やっぱりその挨拶の中には、ありきはいなかった。
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