「…雨だね、優ちゃん」
「雨だねぇ、月子…」
ある日の放課後、あたしと月子は校舎の玄関で立ち往生していた。
天気は雨。
どこからどう見ても、土砂降りの雨。
「どうしよう…？」
「止みそうに無いし購買の傘は完売だったし…こうなったら濡れるの覚悟で寮まで走るしか」
「…何してるんだ、二人共」
不意に聞こえた声に振り返ると、そこには訝しげな表情の宮地が立っていた。
「宮地くん！」
「や、あたしも月子も傘持ってなくてさ。どうしようかと」
「梅雨時のこの季節に傘を持ち歩かないのか？」
「だって…朝はあんなに晴れてたじゃん」
…そう。
朝の時点では、この時期には珍しい快晴だったのだ。
だから傘を持って来なかったのに。
「まさか午後から急に降りだすなんて…」
恨めしそうに空を見上げるあたしに、宮地は溜め息をひとつ。
「…使え」
「え？」
「二人で使うには小さいだろうが、無いよりはマシだろう」
そう言ってあたし達に折り畳み傘を差し出す。
「え、でも宮地くんは？」
「俺は走って行くから気にするな」
「バカ、そんなの気にするに決まってるでしょ！」
傘を宮地に押し返し、少し思案。
「宮地、月子のこと送ってあげてよ」
「小林はどうするつもりだ？」
「んー、もーちょい止むの待ってみるよ」
最悪誰か先生捕まえる、と笑って、納得しないような顔の二人に手を振って見送る。
一向に止む気配を見せない雨の中、立ったり座ったり、うろうろしてみたり。
いい加減走ってやろうか、と思い始めた頃、背後から聞こえたあたしを呼ぶ声。
「優？」
「？」
振り返った先には、少し驚いた様子の一樹先輩。
「どうしたんですか、こんな時間に」
「それはこっちの台詞だ。いくら学園内とはいえ、女一人でうろつくなって言っただろ？」
軽く拳を落とされて、素直に謝ればよろしい！と撫でられる。
「しかし…お前、さっきから何やってたんだ？」
「…見てたなら声かけてくださいよ」
「すまんすまん。で、何してたんだ」
「あー…朝は見事な快晴だったもんで、傘持ってきてなくて。そろそろ寮まで走ろうかと思ってたんですけど」
そう言うと、呆れたように溜め息を吐かれてしまった。
「お前なぁ…」
「そんなわけなんで、寮まで傘に入れてってくれたら嬉しいなー、なんて思ったり」
「…濡れて帰れってわけにもいかねぇしな。ほら、行くぞ」
(そういえば、たしかこんな歌あったな)
(しょうがないから入ってやるなーんてー隣にいるー君が笑うー♪)
(今は「しょうがないから入れてやる」だな)
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