「優ー?なにやってんの、こんなとこで」
桜の花びらが舞い散る昼下がり、あたしは大学の正門前にいた。
今日は入学式だから講義無いでしょ、と首を傾げる友人に、ちょっとね、と曖昧に笑いかける。
「待ち合わせしてるから」
「待ち合わせ?新入生に知り合いでもいるの?」
「まーね」
10分程立ち話をしていると、講堂からぞろぞろと新入生達が出てきた。
「あ、入学式終わったみたいね。優の知り合いってどれ?」
「どれって…」
品定めをするような彼女に苦笑していたら、一際目立つ空色の髪が目に入って。
大きく手を振って彼に声をかける。
「金久保くーん!」
「優さん。お久しぶりです」
相変わらず柔らかな雰囲気の金久保くんは、すぐにこちらに気付いて近付いてきた。
「久しぶり。あと入学おめでとう!」
「ありがとうございます。これからよろしくお願いしますね、先輩」
「こちらこそ」
「えっ、優の待ち合わせの相手ってこの人?イケメンじゃん!」
「残念、違うよ」
目をキラキラさせて金久保くんを見上げる友人はもう放っておいて、彼に視線を戻す。
困ったように笑っていた金久保くんは、あたしの視線に気付くと何かを思い出したようだ。
「ああ、彼なら知り合いの教授と話してましたから、多分そろそろ…」
「優!!」
金久保くんの背後、待ちわびた声が聞こえた瞬間、あたしは駆け出していた。
友人の驚く声を背中で聞いて、その腕の中に飛び込む。
「一樹くん!」
「半年、待たせたな」
「ううん、入学おめでとう!」
しっかりと抱き止めてくれた彼は、夏に別れた時より幾分逞しくなったような気がする。
一頻り抱き合って、額にキスを落とされたところで、ここが正門前だということを思い出した。
「え…待ち合わせの相手って、その人?どういう関係なの?」
「………彼氏」
「どうも、不知火一樹です」
「まじで!?彼氏いたとか聞いてないんだけど!」
「だって言ってないし。それに遠距離だったし。ね、」
「まあな。この半年、どれだけ会いたかったか」
優にこんなイケメンの彼氏がいたなんて!とかなんとか嘆く彼女に、一樹くんと顔を見合わせて吹き出す。
「これからは毎日会えるね?」
「ああ、そうだな」
「…一樹も優さんも、幸せそうだね」
「「当然!」」
声を揃えて答えれば、金久保くんはお幸せに、と微笑んでくれた。
その笑顔に、一樹くんと手を繋いで笑い合う。
あの夏、7日間の間に始まったこの恋は、今もこうして続いている。
そしてきっと、これからも。
プリズム色の恋を、君と。ずっと。
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