ホテルに戻り、課題の観測に行くという不知火く…一樹くんにワガママを言って、一緒に着いてきた。
…さすがに浴衣のままってわけにはいかないから私服に着替えたけれど。

「まさか優の方からもっと一緒にいたいなんて言い出すとはなあ」

「だって…お昼前には一樹くん達は帰っちゃうじゃない」

望遠鏡を覗きながらノートに何かを書き留め、くつくつと笑いを耐える一樹くんに、むぅ、と頬を膨らませる。
日付も変わり、今日はもう一樹くん達の研修最終日。
チェックアウトは午前中だと聞いているし、あたしは今日は遅番だから部屋に戻ったらきっともう会えなくなる。

「…せっかく両想いになったんだもん、少しでも傍にいたい」

「可愛いこと言いやがって…今すぐ襲うぞこのやろう」

「ちょ、外でなんてやめてよ!?」

「冗談だっつの」

「一樹くんの冗談は冗談に聞こえない」

溜め息をひとつ吐き出して、まだ暗い空を見上げる。
この空から星が消えたら、一樹くんとはしばらく離れ離れだ。
遠距離恋愛ってやつになるのかな、なんて思いながらぼんやりとしていたら、背中から心地よい熱に包まれた。

「お前星座わかるのか?」

「んー、さそり座とか夏の大三角とか、有名なやつなら」

「ま、普通はそんなもんか」

耳元で空気が揺れて、一樹くんが笑う。
この笑い声も、しばらくは聞けなくなるんだ。

「…一樹くん」

「んー?」

「もう一回、キスして?次に会える時まで、忘れないように」

「…優が満足するまで、何回でもしてやるよ」

言うなり落とされるキスの雨に、彼のこと以外考えられなくなるくらい思考が溶かされていく。
致死量の甘さ、このキスに埋もれて死ぬのなら、それも悪くないかもしれない。

「寂しくなったら、いつでも呼べよ。そしたら俺が会いに行く」

「そうしたら、毎日呼ばなきゃいけなくなっちゃう」

「さすがに毎日は無理かもな?」

「冗談だよ。大丈夫、ほんとに我慢できなくなったらにするから」

額を合わせて、笑いながら抱き合って。
一樹くんの肩越しに見えた空は、だんだんと明るくなってきていた。

「もうすぐ夜明けだな」

「…うん。浮気しないでよ?」

「ほぼ男子校の星月学園でどうやって浮気するんだよ。それはこっちのセリフだ」

「するわけないじゃない、こんな男前な彼氏がいるのに」

今度はあたしから彼にキスを贈って、星が消えて白んでいく空を見上げる。
離れて過ごすのは寂しいけれど、夜空に輝く星は同じだから。

…だからきっと、あたし達は大丈夫。





紫色の夜明け前





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