優から『仕事終わったよ!10分後にロビーに集合(`・ω・´)』というメールを受信して、ロビーに来てから30分。
彼女が現れる気配は未だ無し。

「もしかしてからかわれたのか…?いやまさか、」

「ごめん不知火くん!お待たせ!」

「遅いぞ、何分待たせ…!」

背後からかけられた声の主に一言文句でも言ってやろうと振り向いて、俺は言葉を失った。
原因は、優の服装。
藍色地に赤い朝顔の柄の浴衣に白っぽい帯を合わせていて、私服や制服の時と比べて少し大人びて見えた。

「ほんとごめん、花火大会行くって言ったらオーナーに捕まってこれ着せられて…!」

「……」

「…不知火くん?」

口元を押さえて視線を外した俺に、優は首を傾げる。

「もしかして、似合わない…かな」

「あー、いや…むしろ似合いすぎっていうか」

可愛い、と小さく呟けば、優は一瞬キョトンとしてから照れ臭そうに微笑んだ。

「…ありがと。じゃあ行こっか!」


花火大会の会場にやって来て、案内された特別席は所謂カップルシートのようなもので。

「まあ予想はしてたけどな」

「嫌じゃない?」

「まさか。初日に言ったろ?俺のものにしてみせるって。むしろ万々歳だっつの。それよりほら、」

始まるぞ、そう言うや否や、眼前の夜空に次々と咲き乱れる光の花。
周囲からも歓声が上がり、隣に座る優も目を輝かせている。

「キレイ…!」

「…そうだな」

お前の方が…なんてベタなセリフを言う代わりに、優の手に自分の手を重ねてぎゅっと握った。

「不知火くん?」

「暫く、このままで…いいか」

「…うん」

小さく頷いて、優も控えめに俺の手を握り返す。
掌に互いの熱を感じながら、俺達は花火が終わるまで無言で空を見上げていた。


「綺麗だったねー…さすがこの辺りで一番の規模なだけあるわ」

「ああ、観光客向けってのもあるだろうしな」

花火大会が終わり、帰り道。
カラコロと下駄を鳴らす優に合わせて、ゆっくりとホテルまでの道を歩く。
暫くは他愛もない話をしていたが、不意に優が足を止めた。

「…優?」

「……」

「どうした、靴擦れでもしたか?」

「ううん、あの、ね。あたし、不知火くんに言わなきゃいけないことがある」

今を逃したらきっと言えないから、と前置きして、優はひとつ深呼吸をする。
そして、真っ直ぐに俺を見つめて、口を開いた。

「…不知火一樹くん。あたしは、君のことが好きです」

「!」

「好きに、なっちゃった。…責任取ってください」

外灯の少ない暗い道でもはっきりとわかる真っ赤な顔。
次に優が口を開く前に、俺は優を抱き締めていた。

「不知火くん、」

「名前。…一樹って、呼んでくれよ」

「…一樹くん、すき、」

「ああ、俺も優が好きだ」

腕の中で微笑む優に、小さくキスを落として。
俺達は、しばらくそのまま抱き合っていた。





藍色浴衣、恋花火





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