深く深く、どこまでも青い海の底へ。
海の底には、宝箱を護る人魚姫。
彼女の話す言葉はわからなかったが、なんとなく理解ができた。

『     』

人魚姫の問いに正しい答えを返すことができれば、宝箱は俺の手に。
そして宝箱の中には、泡に包まれて眠るプリンセス。
頼む、その宝箱を俺にくれないか。
そこで眠っているプリンセスは、俺の、

「………、ゆめ、か…?」

はっとして目を開けると、目の前にはホテルの天井。
時計を見れば昼前で、だいぶ寝過ごしてしまったらしい。
それにしても我ながら随分とメルヘンな夢を見たと思う。
まさか人魚姫に護られていたプリンセスが

「優だったなんてな…」

「呼んだ?」

「!?」

廊下を歩きながらの独り言に返事が返ってくるとは誰も思わないだろう。
驚いて振り返った先には、制服姿の優がいて。

「随分と朝寝坊だね、もう昼だよ?」

「放っとけ。優はこれから仕事か?」

「うん、今日は中番だからね。ていうか不知火くん、寝癖酷いよ」

ケラケラと楽しそうに笑う優は、泡の中で眠るプリンセスのイメージとは正反対だ。
どうしてあんな夢を見たのか…自分でもよくわからない。
俺の場合はもっと具体的に未来が視えるから、あれは多分星詠みではないだろう。
星詠みではないはずなのに、妙に気にかかるのは何故だ?

「…くん、不知火くん!」

「、ああ…なんだ?」

「なんだ?じゃないわよ…眉間にシワ寄ってるよ」

「悪い、ちょっと考え事してた」

「そんなに険しい顔になる考え事ってなんなの…」

あんま根詰めると禿げるよ、なんて言いながら、優はポケットから一枚の紙を取り出す。

「不知火くんが禿げる未来はさておき、明日の夜って空いてる?」

「明日の夜?つーか禿げは余計だ」

明日の夜は最終日前日だから観測はほとんど残っていなかったはずだ。
そう伝えると、優は先程の紙を俺に差し出してきた。

「じゃあさ、良かったらこれ…行かない?」

「…花火大会?」

「男女ペアで行くと、花火が見やすい特別席に入れるんだって。不知火くんさえ良ければなんだけど」

不安そうに俺を見上げる優にくらりと目眩。
どこで覚えたんだ、そんな誘い方。

「…そんな可愛くおねだりされたら、ノーなんて言えないだろ」

「!」

「お姫様からのお誘い、ありがたくお受け致しますよ」

「ありがとう!明日は早番だから、仕事終わったらメールするね」

笑顔で手を振り駆けて行った優に手を振り返して見送る。
夢中にさせるつもりが、俺の方が夢中じゃないか。
そう思いつつも、満更でもない自分がいることもわかっていて。

「こうなったら、とことん堕ちてやろうじゃねえか」

深く、深く。
願わくば、君と共に。





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