星月学園の研修二日目。
初日からどっと疲れてはいたけれど、今日の勤務は無事終了。
今日は早番だったから日が沈むには時間があってまだまだ暑い。
散歩でも行こうかな、と私服に着替えてホテルのプライベートビーチに出たのが間違いだった。

「優!今日はもう仕事終わりなのか?」

「…早番だったから」

「そうか、お疲れさん」

いきなり爆弾発言をかましてきた例の彼、不知火一樹くんに捕まりました。
昨夜少し話して、不知火くんは高校生だけどあたしと同じ19歳であることが判明。
勤務中以外は敬語止めろとお願い(命令?)されたので、お言葉に甘えてそうすることにした。

「不知火くん達は今日はずっと海にいたの?」

「ああ、翼…生徒会の後輩が行きたいって煩くてな。あいつらだけじゃ不安だから監督代わりだ」

そう言いながらも不知火くんは笑顔で。
なんだかんだ言いながら楽しんでもらえてるみたいだ。

「そうだ優、お前この一週間の間に休みあるか?」

「え?うん、まあ」

「じゃあ、良かったら「ぬいぬーい!!」

不知火くんが何か言いかけた瞬間、叫び声と同時にばしゃあ、と降ってくる大量の水。
何が起きたのかわからなくて呆然としていると、目の前の不知火くんがわなわなと震えだす。

「不知火くん…?」

「…つーばーさー…てめえ何しやがる!!ちょっとこっち来い!!」

「ぬははは!ぬいぬいが怒ったのだー!!」

「待てこの野郎!!」

「ちょっ…!……行っちゃった」

あたし達にバケツで水をかけてきた少年(彼が翼くんかな?)を追いかけて、不知火くんは波打ち際に駆けていく。
その背中を見送っていたら、不意に頭からタオルを被せられた。

「わっ!?」

「すみません、一樹と天羽くんに巻き込んじゃって。良かったらこれ、使ってください」

「はあ、どうも…」

「あ、自己紹介がまだでしたね。僕は金久保誉。一樹の友達です」

よろしく、と微笑んだ彼は、優しくあたしの髪を拭いてくれる。

「あ、なんかすみません」

「いいえ、友人の不始末ですから。後で叱っておきます」

「いやそんな、いいですよ。部屋に戻れば着替えあるし、今日は仕事終わりなんで」

タオルを洗って返す旨を伝えれば、金久保くんはまたふわりと笑ってくれた。
優しそうだし、不知火くんとは正反対のタイプだな。

「一樹ー、そろそろ夕飯だし戻ろう!」

「おー!行くぞ翼!」

「ぬいぬいさー!」

海から上がってきた不知火くん達を横目に時計を確認すれば、そろそろ日没の時刻。

「それじゃあ優、またな」

「待って、もうちょっとだけ時間ある?」

「?」

「もう少ししたら多分…ほら、」

時計から目を離して、海の方を指差す。
それに釣られて彼等も視線を海に向ければ、そこには。

「わあ…」

「キレーなのだー!」

オレンジ色に染まった水平線に沈む太陽と、紫へと変わる空のグラデーション。

「180度のサンセットが望めるプライベートビーチも当ホテルの売りですので。お気に召しましたか?」

「ああ、見事なもんだな…」

それ以降、あたし達に言葉は無く。
太陽が沈みきるまで、並んで夕日を見つめていた。





橙色の夕日を見つめて





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