今日から始まった、星月グループ系列のリゾートホテルを利用した宿泊研修。
…研修とは名ばかりで、観測とまとめをする時間以外はほぼ自由時間。
言わば学校の金で遊びに来ているようなもので。
「いいかてめーら、いくら貸し切りだからってホテルのスタッフさん方に迷惑かけんじゃねーぞ!先生とスタッフさんの指示に従わない奴は俺が殴りに行くからな!」
はーい、と返事だけはいい奴等に大まかな日程を説明し、先生に拡声器を渡す。
この後は各班ごとにルームキーを受け取り、夕飯までの自由時間だ。
「以上、解散!」
陽日先生の声に、班の代表がばらばらとルームキーを受け取りに動く。
指示されたカウンターに向かえば、そこには他のスタッフより若い印象の女性スタッフがいた。
「1021号室です」
「はい、こちらがルームキーです。全室オートロックとなっておりますので、部屋を出られる際には必ずお持ちください」
「…なあ、あんた他の人に比べて随分若いんだな?」
隣のカウンターは初老の男性、その向こうは中年の女性。
明らかに浮いている彼女にそう聞くと、ぱちぱちと目を瞬かせる。
「あー…あたしはアルバイトの大学生なんで」
「リゾートバイトってやつか」
「ええ、まあ。他のスタッフに比べて年も近いですし、お気軽にお声かけくださいね。勤務時間外でしたらお喋りとかもお相手できますので」
彼女がそう言って笑った瞬間、どくりと大きく跳ねる鼓動。
急に黙った俺を不思議に思ったのか、彼女は首を傾げた。
「あの…?」
「…なあ、あんた名前は?」
「へ?あ、小林です。小林優」
「じゃあ優だな。この一週間で俺のものにしてみせるから、覚悟しとけ」
言いながら、彼女の腕を引いてカウンター越しに額に唇を落とす。
数秒置いて状況を理解したのか、額に手を当ててみるみるうちに赤くなった優につい笑みが零れた。
「えっ、あの…!」
「俺の名前は不知火一樹だ。覚えとけよ?」
すっかりフリーズした彼女に手を振り、カウンターを離れる。
一週間後どうなっているかは、星詠みでも視えていない。
「…楽しい研修になりそうだな」
「?何かあったの?」
「ちょっと、な。とりあえず部屋行こうぜ」
同室の誉に不思議そうに問いかけられたが、まだ教えない。
どうやってアプローチしていこうか考えながら、俺はエレベーターのボタンを押した。
赤く染まった君の頬
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