先日の握手会、彼のレーンに行ったら言われた衝撃的な一言。

『いつか、アイドルなんて肩書きが無くても、一番って言わせて見せるから』

『えっ…?』

『いつものレストランで待ってて。今度は僕が会いに行く』

その言葉を鵜呑みにした訳じゃないけど、あたしはまたこの店に来ていた。
…まあ、会社から一番近くて値段も手頃で美味しいから、他に行くという選択肢は無いんだけど。

「あれ、優じゃん。ひっさしぶりぃ」

「…京也」

ハァイ、なんて言いながら店にやって来たのは、伊達京也。
今でこそ巷を賑わす人気アイドルグループ…X.I.P.のリーダーなんてやってるけど、彼はあたしが新卒で入社した頃からの…まあ、いわゆる顔馴染みってやつだ。

「久しぶりって、あたしはほぼ毎日ここに来てるけど」

「まぁ俺ってば今をときめくアイドルだし?てゆーか、こないだの握手会!俺のレーンに来てくんなかったじゃん」

「何が楽しくてアンタとお金払ってまで握手しなきゃいけないの…」

「つれないねェ。あ、オーダー、プリーズ!」

何故か勝手にあたしの向かいに座った京也は、注文を済ませてあたしに向き直る。

「でもさ、握手会には来てたろ?誰のレーン行ってたの」

「別に、誰だっていいでしょ?」

「…ま、聞かなくてもわかるけど?」

ニヤリ、嫌な笑みを浮かべた京也は、手を伸ばしてあたしの髪に触れた。

「そのシュシュ、あいつの色だろ」

「!」

「図星。お前ホントわかりやすいな」

確かにあたしの髪はアイスブルーのシュシュでまとめてあって。
今はシャーベットカラーが流行だし、バレるわけないと思ってたのに。

「6人の中で一番仲いいの俺だと思ってたんだけどなー…俺じゃダメな理由ってなんなの…」

大袈裟に溜め息を吐いた京也は、ふざけたような口調とは反対の真面目な顔をしていて。
何か言おうとした瞬間、後ろから伸びてきた手に口元を塞がれた。

「強いて言うなら、この子は僕のお姫様だから。…かな」

「…シン。いつから聞いてた?」

「シュシュの色あたりからかな」

あたしを挟んで会話する二人には、どこか険悪な空気。
暫しの無言が続いた後、京也のランチが運ばれてきて、その空気は崩れた。

「…とりあえず一時休戦だ。せっかくの料理が冷めちまう」

「ごゆっくり。…行こう」

「え?あっ、伝票…!」

音羽くんに腕を引かれ、慌てて伝票を取ろうとすると、あと少しのところでそれは京也に阻まれる。

「今日は俺がご馳走してあげる。次の握手会は俺んトコ来いよ?」

「ごめん京也、ありがと…!」

腕を引かれるまま、連れて来られたのは人気の少ない公園。
音羽くんは、さっきからずっと黙ったままだ。

「音羽くん…?」

「…ねぇ、キョウヤ君と仲いいの?」

「え、あ…まあ、顔馴染みというか」

「名前で、呼び捨てにするくらいに?」

振り向いた音羽くんは、握手会の時と同じように両手であたしの手を握る。
でもその表情は「3Majestyのシン」ならファンに絶対見せたりしないような、どこか切ない…泣きそうな、そんな風に見えて。

「音羽、く、」

「…名前で呼んで。僕も」

「……慎くん」

「…うん」

名前の呼び方を変えただけで、彼はとても嬉しそうに笑った。

「あと、僕は君の名前を知らない」

「え、」

「誕生日も、好きな食べ物も…何も、知らない。だから、教えて?」

両手で握っていた手を離されたと思ったと同時に、音羽…慎くんはあたしを抱き寄せる。

「ちょ、駄目だよ!誰かに見られたりしたら…!」

「大丈夫。僕だから」

いつも握手会でもこうでしょ?なんて笑う慎くん。

「それに、この間言ったよね」

「?」

「アイドルなんて肩書きが無くても、一番って言わせて見せるからって」

目の前のこの人は、本当に全国の乙女に笑顔を振り撒いている王子様なんだろうか?
彼氏からも奪ってみせるから覚悟してて、なんて言いながら額にキスされて、あたしは真っ赤になって彼を見つめるしかできなかった。





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(“生まれる前から小指で結ばれた赤い糸”)
(その先にいるのは、誰?)





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