俺の彼女は月に一度、満月の夜に雰囲気が変わる。

「一樹先輩…」

いつもの、どちらかと言えば幼い雰囲気とは一変して、妖艶な色気さえ感じるような表情で、優は俺に手を伸ばす。
そして、そのまま重なる唇。
キスに応えながら、今夜は満月だと思い出した。
しかも今宵はスーパームーン。
いつも以上に求められるのは…まあ、悪いものじゃない。

「ん…ねぇ、早く…」

「…そんなに欲しいのか?別に俺じゃなくてもいいんじゃないのか」

「そんなこと言わないで…!一樹先輩じゃなきゃ、」

頬を染めてうっすらと涙を浮かべる優は、月明かりに照らされて本当に綺麗だ。
冗談だよ、ともう一度軽く口付けてネクタイを外し、シャツを脱ぐ。

「ほら…来いよ」

「…ん、」

するり、優は腕を俺の背に回し、首筋に顔を埋めた。
直後に感じたまだ少し慣れない痛みに、俺はゆっくりと息を吐く。
優の喉がごくりと鳴って、首筋に這う舌の感覚。
そっとその場所に触れると、真新しい小さな二ヶ所の傷が確認できた。

「…ごめんなさい」

「謝ることないだろ。お前が生きる為に必要なら、俺の血くらい安いもんだ」

しゅんとして俯く優の頬を手で包んで上向かせれば、普段の黒い瞳とは正反対の深紅の瞳と視線が交わって。
一瞬、その瞳に囚われそうになった。

…優は、満月の夜だけ、吸血鬼になる。

昔は吸血衝動なんてものは無かったらしいが、学園に入学したくらいからそれが顕著に現れてきたらしい。
どうしたものかと学園の敷地内を徘徊している時に俺と遭遇して、それ以来、月に一度…満月の夜にこうして人目を避けて逢瀬を重ねてきた。
そしてそれは、恋人同士になった今も続いている。

「もしもあたしが吸血鬼じゃなかったらって、たまに思うんです。そしたら、一樹先輩ともっと普通に恋ができてたのかなって」

「たらればを言っても仕方無いだろ?」

「でも…」

「でもも無しだ。俺は、優が吸血鬼であることもひっくるめて全部好きになったんだ。それでいいだろ?」

何かを言いかけた優の唇を少し強引に自分のそれで塞げば、口内に僅かに残る鉄の味。
なあ、俺の血が優の生きる糧になるなら、俺はすべてを差し出す覚悟でいるんだぜ?

「…それより、そろそろこっちも限界じゃないのか?」

「、あっ…意地悪…っ!」

「なんとでも。で?どうなんだ?」

「…っ、早く、きて、」

吸血衝動と同時に性欲も増すのだと打ち明けられたのは、付き合い初めて最初の満月の夜。
涙に揺れる紅い瞳で俺を誘う優は他の何より扇情的で。
それが女吸血鬼が獲物の男を誘惑する為の罠だと知ったのは最初に体を重ねてから暫く経った頃だったが、今はそれでもいいと思っている。

「せんぱ…かずき、先輩っ」

「優…っ、」

「かず、き、せんぱ…、す、き、好きぃ…っ!」

「ああ…俺も、愛してる、」

その唇から無意識に零れる愛の言葉だけは、真実だと。
それだけがわかっていれば、優が何であろうと、構わない。
きっと俺達の立場が逆だったとしても、それはきっと変わらない…そう信じて、優の奥深くに熱を叩き付けた。






(絡む指先、熱い吐息)

(果てなく続く)
(血に濡れた月夜の逢瀬)





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