【side Cancer】


昼食を食べ終えて、優は青空くんと犬飼くんと共に神話科の応援席へ戻って行った。
片付けた食器類を寮に置きに行こうと歩き出すと、哉太が寄ってくる。

「なぁ錫也、お前優に対して甘くね?」

「…そうか?女の子なんだし、優しくするのは当然じゃないか?」

そう返すと、哉太は無自覚かよ、とかなんとかぶつぶつ呟いている。

「何が言いたいんだよ?」

「何でも…なくはねぇけどよ。こーゆーのって、自分で気付かないと意味ねぇんじゃね、多分」

何やら一人で納得している哉太はもう放っておくことにして、俺は自分の寮に入っていった。



「おっ、不知火会長と優だ」

寮からグラウンドに戻る途中、哉太が少し離れたところで話している二人を見付けた。
不知火先輩の表情はここからは確認できないが、優は楽しそうに笑っている。

「なんか楽しそうだな」

「…行かないでいいのか?」

「ああ。行ったら後で文句言われそうだしな」

「文句?」

「そ、文句」

一体誰が文句を言うんだ。
疑問に思っていると、白銀先輩が二人にカメラを向けながら近付いていくに気付く。
何か言われたのか、優の顔は瞬時に赤く染まり、不知火先輩の背後に隠れるように移動した。
それを見た瞬間、言い様の無い感情が生まれる。
どこかもやっとしたような…そんな感情。

「………?」

「どうした?錫也」

「…いや、」

なんでもない、そう言おうとした、その時。
優が俺達に気付き、笑顔で手を上げた。

「錫也ー!哉太ー!」

その声に先輩達もこちらに振り向き、不知火先輩は一瞬気まずそうな表情を見せるがすぐにいつもの強気な表情に戻る。

「何やってんだお前等、こんなとこで」

「錫也の部屋に昼に使った食器置いてきたんすよ」

「どうせ哉太は手伝ってないんでしょ?」

「うるせっ」

「わ、ちょっと!髪グシャグシャになるじゃんっ!」

きゃーきゃーとじゃれ合う二人に苦笑しつつ不知火先輩を見やれば、優しい瞳で優を見ていた。
…あの頃、月子を見ていたのと同じ、優しい瞳で。

「俺はもう本部テントに戻るからな。お前等、優を神話科まで送ってやってくれ」

「だから一樹先輩は過保護すぎですよ。別にあたし一人でも…」

「駄目だ。じゃ、頼んだぞ、七海、東月」

「はいっ!」

「………」

軽く優の頭を撫でて去っていく背中を、俺は無言のまま見つめていた。
自分の中で生まれた感情には、まだ蓋をして。





(気付いてしまった)
(彼女を見る彼の視線で)

(あの人は、君に恋をしてる)

(そして、俺も、)




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