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「ブルームーン…ッスか?」
「そ、一ヶ月に満月が2回あることをそう言うの」
「へー…」
今回はこないだの2日と今度の31日だよ、と優っちが笑う。
「で、once in a bluemoonで『滅多に無い』とかって意味合いの慣用句になるんだって」
「確かに、一ヶ月に2回満月があることも、月が青くなることもそうそう無いッスもんね」
「そーゆーこと!」
二人で歩く帰り道、今はまだ少し欠けている月の下。
優っちは星とか天文とかそういったものが好きらしく、色々な話をしてくれた(新たな魅力発見ッス!)
「あとは…そうだね、あれとか」
「あれ?」
「『月が綺麗ですね』」
月ではなく俺を見て、優っちはそう言った。
薄い月明かりではよくわからないけど…少し頬が赤い、ような?
意味がわからなくて首を傾げていると、優っちはくすりと笑った。
「…やっぱり知らなかったか」
「???どーゆーことッスか?」
「次の満月までの宿題にしといてあげる」
「えー!?何スかそれ!?」
「ちょっとは本読みなよってこと。あ、もう駅だね」俺が引き留める間もなく、優っちは手を振って改札を抜けていってしまった。
「月が綺麗ですね、ッスか…」
今のオレが考えても、言葉以上の意味は思いつかなくて。
どうしたものかと考えながら、オレは一人帰路についたのだった。
「…ってことなんスけど、どう思うッスか黒子っち!」
「……キミは馬鹿ですね、黄瀬くん」
ずずず、とバニラシェイクを啜る黒子っちに一刀両断されて、オレはがくりと肩を落とす。
「小林さんが本を読めと言ったのもわかります」
「黒子っちまでそれ言うのー…勘弁してくださいッスよ…」
テーブルに突っ伏して黒子っちを見上げたら、心底めんどくさそうな目で盛大に溜息を吐かれてしまった。
いくらオレでもさすがに心が折れそうッス…あ、ちょっと涙出そう。
「…仕方無いですね。黄瀬くん一人では答えに行き着きそうに無いんで、お手伝いしましょう」
「!!」
「バニラシェイク一週間で手を打ちます」
「お安い御用ッス!」
…とまあそんなわけで、黒子っちに連れてこられたのは近くの図書館。
「小林さんが言ったのは、夏目漱石の和訳です」
黒子っちは一冊の本を棚から取り出し、パラパラとページを捲ってオレに差し出す。
確かにそこには「月が綺麗ですね」というセリフが書かれていた。
「そして、その本の原文がこれです。そのセリフを原文と見比べてみてください」
「え、オレ英語あんま…」
「大丈夫ですよ」
言われるまま、なんとか分かる単語を対比させながら原文を辿っていく。
「…これって、」
「わかりましたか?それが小林さんの『宿題』の答えです」
「ありがと黒子っち!オレ、優っちに会ってくる!!」
図書館ではお静かに、という黒子っちの声を背中で聞きながら、オレは図書館を飛び出した。
走りながら携帯を取り出して、ワンコール、ツーコール。
『はい、黄瀬くん?』
「優っち!こないだの“宿題”の答え、わかったッスよ!!今から会える?」
『……一時間後に、いつものストバスコート』
「了解ッス!」
電話を切って、走る速度を上げる。
やばい、顔が緩むのが止められない。
奇しくも今日は8月31日。
ブルームーンと呼ばれる満月の下で、早くキミに伝えたい。
「月が、綺麗ッスね!」
ブルームーンに囁いて
(照れ屋なキミが精一杯伝えてくれた)
(心からのI LOVE YOU)
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