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心地好い気候の春が過ぎ、雨の匂いが空気に混ざり始めた頃。
冬服の黒いジャケットを脱いで、制服も夏服に切り替わる。
「男子は半袖になるだけだからちょっとつまんないよね…」
「制服に面白さを求めるなよ」
「女子はスカートの色が変わるんですね。よくお似合いですよ」
「ありがと、颯斗」
「出たよ、青空フェミニスト!」
朝のHRが終わって、一限が始まるまでのわずかな時間。
あたし達のいつもの雑談タイム。
犬飼がふと思い出したように口を開いた。
「そういえば、もうすぐ体育祭だよな」
「今日のLHRで個人種目の選手決めをするらしいですね」
「へぇ…あたしは運動得意じゃないし、選ばれないことを祈るよ」
そんなことを話していた、その時には。
自分の身に何が起こるかなんて、まったくわかっていなかった。
「じゃあ個人種目の出場選手と当日の係決めるぞー」
ざわざわと少しうるさい教室の中、黒板の前でクラス委員長が声を上げる。
「だいたいはやりたいやつが出ればいいと思うんだけどさー、俺個人的に、小林にやってもらいたいのがあるんだよね」
「ぅえ?あたし?」
突然名指しにされて変な声が出た。
犬飼が笑い堪えてるよちくしょう…。
「あたし運動得意じゃないし、競技には出ないからね?」
「いや、競技じゃなくて」
競技じゃなければなんなのさ。
あたしの無言の訴えを知ってか知らずか、委員長はニヤリと笑みを浮かべる。
「小林、応援団やってくれよ」
「やだよめんどくさい」
一蹴。
出来る限り面倒は避けたいのだ。
「頼むよ小林!せっかく女子がいるんだから、野郎よりも女子に応援してほしいじゃん!!」
委員長の一言に、教室内が一気に盛り上がる。
「そーだよなー」
「他の科には無い特権を生かそうぜ!!」
「やってくれよ小林ー!」
…なんだかこれは、とても断れない雰囲気になってきた感じですか、ね、?
「…ああああもおおおおおうるさいっ!やればいいんでしょやってやるわよ!!女は度胸!!」
「それでこそ神話科の眠り姫!」
「その名前で呼ぶな!」
犬飼が「女は愛敬、だろうが」って言ってたのは、あえて聞こえないフリをしておいた。
度胸でいいのよ、度胸で。
「このあたしが応援するからには、あんたら負けたりしたら許さないんだからね!死ぬ気で勝ちやがれ!!」
委員長を押し退けて、教卓を叩いて宣言する。
大盛り上がりの体育祭まで、あと少し。
(ねー委員長ー。応援団って学ランでしょ?あたしも着ていいの?)
(…着たいのか?)
(着たい。超着たい。)
(……目がマジだぞ、小林)
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