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【side Aries】
「おはよう、一樹」
登校中、背後から肩を叩かれて振り返る。
振り向いた先には、空色の髪が涼しげな印象の友人の姿。
「おう、誉か。自主練終わったのか?毎日頑張るな」
「こういうのは毎日の積み重ねが大事だからね。ところで、その頬どうしたの?」
「頬?…ああ、これか」
もう痛みはほとんど無いから忘れていたが、頬には絆創膏が貼ってあった。
「昨日昼休みに優をガラスから庇ったときにな」
「ガラス…また詠んだの?」
誉が眉を寄せる。
星詠みで視た未来を変えた代償が、自分に返ってくることを知っているからだ。
「いや、昨日はたまたまだ。廊下で話してたらグラウンドから野球ボールが飛んできてよ…」
「そう…一樹は自分を大事にしないから心配だよ」
「そうか?」
「そうだよ。一樹が怪我したりしたら、小林さんだって心配する。自分を庇ったせいなら尚更ね」
そういえば俺を保健室に引っ張っていく間、泣きそうな顔をしていたことを思い出す。
自分が怪我したわけでもないのに。
「…善処するよ」
「一樹の善処する、はアテにならないからなぁ…あ、小林さんだ」
誉の言葉に前を見ると、少し離れたところを歩く黒髪の女子生徒。
現在星月学園には女子生徒は小林優と夜久月子の二人だけな上、二人は外見が全く違うから遠くからでもすぐにわかる。
「おーい、優!」
声をかけると優は振り向いて驚いたような表情を見せたが、俺達が追い付くとすぐに笑顔を浮かべた。
「おはようございます!一樹先輩、金久保先輩」
「おう、おはようさん」
「おはよう、小林さん」
俺と誉で、優を挟むようにして歩く。
誉の身長が高いせいか、小林がやけに小さく見えた。
「小林さんはいつもこの時間に登校してるの?」
「いえ…いつもはもう少し早いんですけど、昨日月子の部屋にお泊まりしたから」
遅くまで話し込んじゃったんですよね、と少し眠そうに目を擦る。
「そんなに遅くまで、何話してたんだ?」
そう訊けば、内緒です、と笑うから、少し意地悪したくなって。
肩に腕を回してわしゃわしゃと髪をかき混ぜる。
「なんだなんだ、父ちゃんには話せないのかー?」
「わ、ちょ、止めてくださいっ!金久保せんぱ、助けて…!」
「こら一樹、小林さんに迷惑かけないの!」
めっ、と子供に言い聞かせるように叱る誉に、俺は苦笑するしかなかった。
(おいおい誉、俺は子供かよ)
(やってることは子供と変わらないよ)
(言われちゃいましたね、一樹先輩)
(優、お前まで…)
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