錫也と一緒に部活を見学して(宮地はともかく、犬飼がカッコ良く見えたのは予想外でした)、弓道部の面々と歩く賑やかな帰り道。
あたしは、さっきから抱いていた疑問を犬飼にぶつけてみた。

「ねー犬飼、さっき白鳥が言ってた『神話科の眠り姫』ってなんなのさ?」

「あー…夜久がマドンナだとか女神だとか呼ばれてんのはお前も知ってるだろ?」

無言で頷くと、犬飼は説明を始めた。

彼が言うところによると、クラスの男子数人の間で「夜久に通り名があるのにもう一人の女子である小林に通り名が無いのはおかしい」という話になったんだとか。
さぁ何にしようかと思ったところであたしを見たら窓際で居眠りしていたので、じゃあ眠り姫でいいじゃないか、ということらしい。

「安直…」

「まぁ姫ってガラじゃねぇけどなー」

「黙れ眼鏡」

ひっでー、とケラケラ笑う犬飼に釣られて、あたしも笑みが零れる。

「そういやお前、なんで弓道場なんて来たんだ?」

「なんでって、月子に用事あって天文科行ったら錫也が部活行ったって…あぁ!」

錫也のシュークリームと眠り姫呼ばわりのせいで、本来の目的をすっかり忘れていたことに今気が付いた。

「どうした、小林」

「何かあったの?」

「あ、なんでもない…わけではないけどご心配は不要です。お気遣いなく」

いきなり大声を上げたあたしに驚いたのか、立ち止まって振り返った金久保先輩と宮地を追い抜いて、その前を歩いていた月子と錫也に駆け寄る。

「月子月子っ!」

「わ、なぁに?優ちゃん」

「錫也のシュークリームのせいで忘れてたんだけど、あたし月子に相談したいことがあって、」

「相談?」

あたしの言葉に苦笑した錫也はとりあえずスルーして、月子の耳元に顔を寄せる。

「…いわゆる、恋愛相談、てやつなんだけど」

「!」

一瞬驚いたような表情をした月子は、すぐに満面の笑顔になって、あたしの手をぎゅっと握った。

「じゃあ、急いで帰ろう!場所はどうする?」

「あたしの部屋か月子の部屋でいいんじゃない?」

「あ、パジャマパーティーみたいにしたら楽しいかも!」

何故かウキウキと計画を立て始めた月子に、あたしは乾いた笑いを浮かべるしか無かった。





(実は、ずっと憧れてたんだ!女の子同士で恋の話とか!)
(そーなの?)
(うん、だから凄く楽しみ!)
(そ、そう…(…大丈夫かなぁ…))




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