一樹先輩が眠ってしまってから、少し後のこと。
不意にスカートのポケットから振動が伝わった。
こんな時間に誰だろう、と思いながら先輩を起こさないようにそっと携帯を取り出せば、画面には颯斗からの着信表示。

…着信、ですと?

「もっ、もしもし!」

『もしもし、優さん?今どこですか?』

授業始まってますよ、と少し怒ったような颯斗の声が電話越しに響く。

「…屋上庭園。ていうか颯斗こそ授業中なんじゃ、」

『急遽自習になったから、こうして電話をかけているんです。どうして屋上庭園に?』

「やー…なんといいますか…話すとちょっと長くなるんだけど、色々ありまして」

『一人ですか?』

「一樹先輩と一緒だよ。寝てるけど」

『…だいたいわかりました。大方、会長が強引に貴方を連れ出したんでしょう』

やれやれ、といった感じで溜め息を吐く颯斗。
まったくもってその通りでございます。

「5限終わったら起こせって言われてるから、6限には出るよ」

『当然です』

「それに、今動けないし」

『?どういうことですか?』

「一樹先輩、あたしの膝を枕にして寝てるんだよね」

『………』

「…………」

『………』

…沈黙が痛い。

「あ、あの、颯斗さん…?」

『…いつの間にそういう関係になったんです?』

「え…は、ちょ、待って!?全然そーゆーのじゃないから!ただの先輩後輩だから!!」

『ただの、ですか』

「女子が二人だけだから、気にしてくれてるだけだよ」

…そう。
あたしが、ほぼ男子校の星月学園でたった二人の女子生徒だから。
生徒会長として、気にかけてくれてるだけ。

「会長にとっては、あたしなんて恋愛対象とか、そーゆーのじゃないよ。きっと」

『…そう、ですか』

「…うん。じゃあ、また後で教室でね」

話を無理矢理断ち切るようにして、通話を終了する。


…どうしよう。

自分で言った『恋愛対象じゃない』って言葉に、自分で傷ついたことに、気付いちゃった。

これは…ちょっと、まさかすぎる事態かもしれない。

哉太には『好きになりかけてるかも』って言ったけど。

まさか、こんな短期間で。


好きになってしまうなんて。





(これが、恋)
(はじめての、本気の恋)




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