足りないのは、きっとあと一歩を踏み出す勇気。


「えっ!?優ちゃんと黄瀬くん、付き合ってないの!?」

時は昼休み、場所は屋上。
リコ先輩の声に、皆が一斉にこちらを見た。

「…付き合ってないですよ」

「あんなに一緒にいるから付き合ってるもんだとばっかり思ってたぜ」

「ボクもです。見るからに二人とも好きあってますから、てっきりそうかと」

火神と黒子くんにあたし以外の全員が同意。
居心地の悪さを感じながら、あたしはジュースのストローを噛んだ。

「いいじゃないですか別に…あたしの恋愛沙汰なんかどうだって」

「そう膨れんなって。みんな小林が大事なんだよ」

「木吉先輩…」

大きな手で頭を撫でられて、心地好さに目を閉じる。
直後、木吉先輩はいいとこ取りするんじゃねえよ、なんて日向先輩に殴られていた。


「…嫌いなわけじゃないんだけど、ね…」

部活の休憩中、体育館の扉に寄りかかってぽつりと呟く。
見上げた空は快晴で、明日もいい天気になりそうだ(風が気持ちいい…)

あたしと黄瀬くんの関係は、所謂『友達以上恋人未満』というやつで。
一緒に遊んだり、休みの前日に長電話したりはするけれど、恋人同士ってわけじゃない。
互いに好意を抱いているのは感じている、でも、決定打が足りないんだ。
どちらかが踏み出せば、きっと。

「あ…ダメだ、ねむ…」

爽やかな風のせいか、不意に強烈な眠気に襲われる。
考えるのを止めて、あたしはそのまま意識を手放した。


「………、……」

…誰かの声がする。
すぐ近くで何かを囁いてる…誰だろう?
意識はまだ眠りの淵を行き来していて、それが誰かを判別するまでには至らない。
ふ、と視界(でいいのだろうか)が暗くなって、光が遮られたのがわかる。

「(だれ…?)」

唇に柔らかなぬくもりが触れて、ゆっくりと目を開ければ視界いっぱいに揺れるさらさらの金髪。

「きせ、くん…?」

「…優っち。オハヨ」

「おはよ…」

ふわりと微笑んだ黄瀬くんに反射的に言葉を返すも、その距離は今にも唇が触れるくらいに近い。
ていうか、今、キスされた…よね?

「なんで、」

「…したくなったから、スかね」

いつもみたいに誠凛に来たら、優っちが寝てて。
寝顔見てたら、無性にキスしたくなったんス。
黄瀬くんはそう言って、ねぇ、と続ける。

「オレさ、そろそろ限界だと思うんスよ」

「限界?」

「ん、限界。気持ちがさ、溢れて止まんないっていうか。そろそろ『一歩』踏み出してもいい頃じゃないかなーって思うんだけど、どうッスかね」

こつん、と額がぶつかって、至近距離で視線が交わった。

「どうっていうか、先に踏み出したのは黄瀬くんじゃん」

「…そッスね。で、返事は?」

「ノーだったら、無許可でキスされて平然としてないよ」

「それもそうッスね。じゃあ、両想い記念にもう一回…」

「調子に乗らないの!」

再度近付いてきた唇は、ギリギリのところで掌に阻まれる。

「ぶっ!…なにするんスかぁ…」

「もうすぐ休憩終わるし、あたし戻るね」

「あ!待ってよ優っち!」

「待たない」

部活終わるまで待ってるから一緒に帰ろー!という黄瀬くんの声を背中で聞いて、あたしは早足でリコ先輩の元へと向かった。
…リコ先輩に真っ赤な顔を指摘され、皆にからかわれるのは、もう少しだけ後の話。






ゼロ離革命
(その唇で、世界は変わる!)




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