『彼』が1年神話科の教室に姿を見せたのは、ある日の昼休みだった。


「おーい、颯斗いるかー?」

思わぬ人物の登場に、教室内が一瞬静まり返る。
平然と教室に顔を出したのは、入学式であの『恐怖政治宣言』をした生徒会長様。

「えっと…颯斗なら職員室に行くって言ってましたけど…」

「そうか…じゃあ、今日は生徒会休みって伝えてもらえるか」

「あ、はい」

確かに伝えます、と言うと、会長はあたしのことを数秒見つめてニカッと笑った。

「お前、小林優だろ?」

「え、あ、そうですけど、」

「何で名前知ってんのかって顔だな。俺は生徒会長だぜ?学園のことなら何でも知ってる」

とても俺様な理論を展開しながら、会長はあたしの頭をポンポンと軽く叩く。

「我が星月学園へようこそ。女子が極端に少ないから不自由することもあるかもしれないが、何かあったら遠慮なく俺に言ってこいよ」

「はぁ…」

「そんな不安そうな顔すんなよ。大丈夫だ、俺に任せとけ!」

その自信はどこから来るんだろう…と思ったけれど、聞いたところで『俺は生徒会長だからな!』と返ってきそうな気がしたから、何も言わずに頷いておく。

「よろしい!…っと、そろそろ予鈴鳴るな。じゃあまたな、小林」

最後にもう一度あたしの頭に手を置いて、会長は教室を出ていった。
その後ろ姿をぼんやり見送っていると、クラスメイトから話しかけられる。

「なぁ小林、お前よくあの会長と会話できてたな?」

「怖くなかったのか?」

「え…別に。言う程怖い人じゃなかったよ?」

話してみたら、怖いというよりはいい先輩という印象の方が強い。

「女子が少ないの気にしてくれてるし、何かあったら言えよって言ってくれたし」

「へぇ…」

みんなあの恐怖政治宣言に多少なりともびびってたみたいだ。
そんな会話をしていたら、颯斗が教室に戻ってきた。

「おや、何やら賑やかですね」

「あ、颯斗。お帰りー」

「今さ、不知火会長が来てたんだよ。何かお前に用事だったみたいだぞ」

「用事…ですか?」

「そうそう、今日は生徒会休みだから伝えといてくれって」

「そうですか…ありがとうございます」



この出来事をきっかけに、あたしと会長の距離がぐっと近付くんだけれども。
午後の授業を眠気と戦っていたあたしは、その事にまだ気付いてはいないのだった。





(よお、小林)
(あ、会長。会長も飲み物買いに来たんですか?)
(まぁな。よし、今日は俺が奢ってやるよ!)
(まじですか!ありがとうございます!)




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