「今度の練習試合でウチが勝ったら、オレと一日デートしてほしいッス!」

黄瀬くんは、確かにそう言った。
そして、僅差とはいえ勝ったのは誠凛。
…なのに、あたしはどうしてここにいるんだろうか。

理由は一つ、黄瀬くんの泣き落としに負けたからだ。

少し離れた視線の先には、ファンらしい女の子達にサインをして笑っている黄瀬くんの姿。
今は邪魔かな、と思いながらしばらく見ていたら、あたしに気付いた彼は彼女達に手を振ってこちらに駆けてきた。

「優っちー!来てくれたんスね!」

「…別に、部活休みだし、特に予定も無かったから」

「それでも嬉しいッス!」

にこにこと笑顔全開な黄瀬くんを見上げると、それじゃあ、と手を差し出された左手。

「…?」

「せっかくのデートだし、手繋いでもいいッスか?」

黄瀬くんはほんの少し頬を染めて首を傾げる。
少し迷ったけど、あたしはその手を取った。

「今日だけだからね」

「ありがとッス!」

そうして黄瀬くんとのデートは始まった…の、だけれども。

「………何やってるんですか、先輩方」

「あー、いや、学校の体育館使えないからストバスでも行こうかってことになったんだが、黒子がお前ら見付けてだな」

「ボクのせいにしないでください。面白そうだから尾行しようって言ったのは先輩方じゃないですか」

黒子くんの言葉に、先輩達は乾いた笑いを漏らしながら明後日の方向に視線を向ける。

「ちくしょう…今日だけは会いたくなかった…」

「そういや今日はワンピースなんだな。いつもパンツスタイルなのに珍しいじゃねーか」

「え?」

「余計なこと言うんじゃないわよバカガミ!行こう、黄瀬くん」

「え、わ、優っち!?」

ポカンとしている黄瀬くんの手を引いて、あたしはその場から歩きだした。
もちろん、これ以上着いてきたらリコ先輩にチクるから、と先輩達に釘を刺すのは忘れずに。

「くっそバカガミ…明日学校で会ったら覚えてろ…絶対沈める…」

「…ねぇ、優っち」

ブツブツと文句を言いながら歩くあたしに黙っていた黄瀬くんが、不意に立ち止まって躊躇いがちに口を開いた。
手は繋いだままだから、一歩分の距離をおいてあたしも立ち止まる。

「さっき、火神っちが言ってたじゃないッスか。いつもはパンツスタイルだって」

「…それが、何?」

「じゃあさ、今日ワンピース着て来てくれたのは…オレのためってことッスか?」

「そ、れは、」

黄瀬くんはモデルだし、並んでおかしくないような格好にしよう、とは思ったけれど。

「パンツスタイルでも良かったはずなのにわざわざワンピース選んでくれたんスよね?」

「………いちお、デートだし」

黄瀬くんの顔がマトモに見れなくて、目を反らして呟いた、瞬間。
腕を引かれたと思った時には、あたしは黄瀬くんの腕の中にいた。

「え、あの、」

「…嬉しい」

「きせ、く」

「ちょー嬉しい。これ、少しは脈アリって思ってもいいッスよね?」

耳のすぐ傍で響く本当に嬉しそうな声、見上げた先には見たことも無いような優しい笑顔。
…ああ、もう。

「…好きにして」

足掻いたところで、君に落ちるのはもう時間の問題みたいだから。





Yellow Yellow Typhoon
(優っちー!会いに来たッスー!!)
(ちょ、黄瀬くん部活は!?)
(今日はレギュラー以外の練習試合なんスよ!だから来ちゃったッス!)
(愛されてんなー小林)
(でも付き合ってる訳じゃないんですよね)
(近いうちに落として見せるッスよ!)



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