さりり、という様な摩擦音で目が覚めた。
正確にはそれは、少し乾燥している男の無骨な掌が、私の頬を撫ぜる感覚の事である。瞼越しにちらちらと踊る光が、既に高く高く日が昇っている事をわたしに告げる。
さりり、さりり。
頬をあくまでそっと、そっとなぞるその掌の皮膚は、所々が硬い。
何で出来た胝(たこ)なんだろうか。
そんな事に想いを馳せつつ、そのいっそ悩ましいほどに優しく、愛おしげな手つきに、知らず頬が上がっていたらしい。
「……起きているだろう」
むに、と摘ままれる頬。んふふ、と間抜け且つ、幸せそうな笑い声が鼻を抜けていく。
「んん……起きてませーん……」
目を閉じたままごそごそと、前方・やや下を目指して潜り込めば、案の定そこにそれはある。探り当てたわたしとは違う体温に額を擦り寄せると、「おい」と嗜める声が降ってきた。……彼は知らないのかもしれないが、その声音は困った様な体裁を作りつつも笑みを含んでいて、こっちがくすぐったくなってしまう程に甘ったるいのだ。
彼がそんな風な声でわたしを呼ぶ様になったのは一体いつの頃からだっただろう。そんな風に愛おしげな手つきでわたしを撫ぜる様になったのは。
もう堪らなくて、思いっきりその体温を抱きしめると、くつくつと喉の奥で笑う声が聞こえて、後ろ髪を漉かれて。やはり優しく優しく、撫ぜるのだ。そうしながら彼は言う。
「……未だ、眠るのか?」
暗に、早く起きろ、と強請るその声の響きときたら!
とうとう降参して、私は目を開けた。そして後悔した。
「漸くお目覚めか」
その眼差しは余りに優しげで、愛おしげで。寝起きにも関わらずクラクラと眩暈がしてしまう程で。
もう堪らなくなってしまったわたしは、悔し紛れにその首に腕を回して、頬にキスをしてやるのだった。
グッド・モーニング・コール
(20170205)