いつもにこにこ笑っている後輩がいた。
美人で優しくて頭が良くて、理想的な優等生。家も結構なお金持ち。理想的な彼女はいつも理想的な友人たちに囲まれて、笑っていた。けれど、私には見えていた。

微笑む彼女の後ろには、いつも宙を舞う鋏がある事。決まってそれは、彼女が綺麗な微笑みを浮かべる時に刃を鳴らす。

しゃきり、しゃきり。

お前なんか一瞬でばらばらにしてやるぞ、と言わんばかりのその音色に、私はいつも何処か安心していた。

こんな完璧超人にも、心には隙間があるのだ。それは、とうとう本性を露にした彼女に鋏を突き付けられた時に愛おしさに変わった。



「切ってもいいよ。でももしそうするなら、綺麗に切ってね」



微笑んでみせれば彼女は腰を抜かした様に座り込んでしまった。

怯えた顔をする彼女。彼女が、本当はいつだって怯えていた事をみちるは知っている。そして彼女が決して、自分を殺せない事も。

絶対的な幸運を呼ぶ自身のスタンドの力だけではない。彼女が善人は殺せない優しい殺人鬼である事を、知っていたから。だから、自分の幸せを少し、彼女に分けてあげようと思った。

いつも何かに怯え、悩み、怒り、それを押し隠して愛想笑いを浮かべる彼女に。



「大丈夫だよ。貴女が思うより、世界はずっと優しいから」



そう、青い鳥──私──の傍にいる限り…世界は温かな太陽で照らされるのだ。いつまで幸せな世界を維持できるかは、彼女次第だけれど。

みちるは青い鳥だけど、ただの鳥籠で満足出来るいい子ではないのだ。そういう意味ではきっと、殺人鬼であっても、彼女の方が余程いい子なのだろう。世界は矛盾だらけで不条理だ。

みちるは一人、くすくすと笑った。







ブルーバード、
レイニーデイ





(20160327)

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