正直不安だった。キスは出来た。嫌悪感などなく、寧ろ上顎を舌先で擽るだけで膝が折れてしまう彼が愛しく、却って心配になってしまったほどだ。けれど、その先となるとどうだろう。How to程度の知識ならある。どう抱いてやればいいのかも想像はつく。しかし、自分の嗜好は至って一般的である。好みのタイプは肉付きのよい健康的な女性。ちょっぴりクセのある…そう、例えば少しだけ素直じゃないとか、照れ屋であるとか、そんな子だったら尚更可愛いと思う。けれど、目の前の彼にはどちらも当てはまらない。何故なら同性であるからだ。今から本来その様な用途で使うべきではないそこを暴き、穢す。彼の事は愛しいと感じるが、けれどそれとこれとは別だ。自分はちゃんと、彼に欲情出来るのだろうか。



口では冗談を言いながら、頭の中では忙しなく、そんな事ばかり考えていた。────…最低やな。一人ごちながらも思考を止める事は出来ない。とりとめもない、考えても仕方がないと解っている事を延々と言い訳し続ける。しかしふと、つつとなぞった彼の身体が、いつになく強張っている事に気が付いた。

はっとして見下ろすと、彼は酷く緊張している様に見える。まるで借りてきた猫の様だ。思わず吹き出すと、普段ならば何がおかしい、と怒るか拗ねるかする筈の彼が、今は何事かと困惑するばかりだ。「大丈夫やよ」。知らず、言葉が口を突いて出た。




「ちゃんと優しくするで」



そう口づけを贈れば、おずおずと縋る様に、背に腕が回ってくる。…普段はああなのに、年上の癖に、男の癖に、なんと罪作りな。あれほど心配していたのに、戯れに耳裏に贈ったキスに大袈裟に頬を染めて嫌がる彼の姿に、早速ベルトを緩めなければならない事態に陥るのはこの数分後の事だった。







杞憂




(0221)




人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -