※Twitter診断の結果からの妄想の産物
※そこはかとなく百合

※ぉk?





“××は悲しみが限界を超えた時、角が生えてきます。ボンゴの角です。角は氷でできていて人を深く愛すると溶けて消えてしまいます。その角は他人には見えません。”

“△△は悲しみが限界を超えた時、角が生えてきます。カモシカの角です。その角は運命の相手だけが消し去ることができます。その角は自分にだけ見えません。”





冬の初め。20XX年、日本。
あちこちで車のクラクションが鳴り響き、人々は口々に好き勝手な言葉を吐き散らす。袖を擦り合わせても誰もが無関心な歩行者天国。そこに私は立っていた。

額に高くそびえた角が────比喩ではない、本当に生えているのだ────風を切る。



今、日本では密かに角が生える奇病が流行しつつあった。私のそれもそうだ。何がきっかけかはわからない。ただ…とても悲しい事があって、生きるのに疲れて、もう息をするのをやめてしまおうかと思った時、それが生えてきた。

気が動転した私は周囲の人に助けを求めたものの、不思議とそれは私以外の人に見える事はないらしく、奇怪なものを見る様な目をされただけだった。誰の目にも見えぬ奇妙な角。頭がおかしくなりそうだ。現に誰も見向きもしないではないか。もしかしたら、本当に頭がおかしいのは私の方なのかもしれない。本当に、本当にもう潮時なのかも。呼吸などするだけ無駄なのだとしたら。



そんな事をぼうっと考えていた時、ふと人波の向こうがにわかにざわついた。もうどうでもよい事ではあるが、何事かと思わず目を凝らす。足早に過ぎ行く女子高生やサラリーマンの向こうに、一人の少女が見えた。

目深にかぶったパーカーの奥から伸びていたのは、十センチにも満たない長さだが、明らかに異質な存在感を放つ角。そう、自分と同じ、角が生えている。



周囲は彼女のそれにざわついている。彼女のそれは、周りの者にもちゃんと見えるものらしい。ならば歴とした病と、患者として扱ってもらえるだろう。自分とは違う。そんな思考が脳裏をよぎる。

しかし、彼女に向かって遠巻きにスマートフォンを向ける若者がいる事に気が付いた。────盗撮しようとしているのだ。



気が付けば身体は勝手に動いていた。少女とすれ違いざまにUターンして、若者との間にちょうど割り込む形で少女のすぐ隣を歩いた。

これでもう撮れはしまい。
思惑通り青年は暫く右往左往し、場所を変えようと足掻いたが横へも前にも往けず、舌打ちだけ残して何処かへ消えていった。

ざまぁみろだ。ふん、と鼻を鳴らすと、隣の少女が深く息をつくのが聞こえた。



「…ありがとうございます」



溜息から間をおかず聞こえた細い声に驚きつつも、自分に宛てられたものではないかもしれないと、日頃の癖から思わず聞こえなかったふりをしてしまった。お前に言ったのではないと嘲笑われるのが怖くて…受身に徹してしまう。

…最低だ。彼女はまた一人ぼっちだ。これでは私も、周りの者達と何も変わらないではないか。



「あの、」



そんな自虐的な思考を引き留めたのは、先程よりも大きな声で発せられた声と、袖を引く小さな手だった。



「良かったら、何かお礼を…その、ご迷惑で、なければ」



思わず目を見開いた先には、半ば縋る様な瞳をした少女がいた。





****



「自分には見えない角?」

「はい」



人気の少ない夜の公園に、そんな素っ頓狂な声が響いていく。



「この角、あたしには見えないんです。周りの人にだけ見えて、あたしにはなんにも見えなくて」



ぽつりぽつりと語りながら、少女は手の中の缶をゆったりと回している。



「知らない内に生えてて、周りの人に変な目で見られて…気持ちが悪くて家に帰ったら親に、角が生えてる、って…」



穴が開くほど鏡を見つめようと、そこに触れてみようと、なにも見えないし触れもないのに。



「あたし、見えも触れもしない角に振り回されてるんです」



おかしいでしょう、と自嘲する声には、年頃の少女には似つかわしくない悲哀が滲んでいる。



────周囲の目に映るなら、自分とは違う。精神病なんかじゃなく、ちゃんとした病として扱ってもらえる────



羨ましい、なんて感じていた少し前の自分を殴りたかった。周りの目には映らぬ角があるなら、己の目にだけ映らぬ角だってあってもおかしくない。自分だけが不幸だなんて。

自分のそんな浅はかな所が嫌いだった。冷えた指がじりりと焼ける様な感覚にも構わず、私はたまらず少女に貰った熱い缶を握り締める。



「…ごめんなさい。おかしいですよね、こんな話」



ていうか、お礼の筈なのになんか愚痴っちゃってるし…と申し訳なさそうな彼女。

そんな事ない、といった様な言葉が気休めに口から飛び出るが、それが慰めになる訳もなく、少女はまた自分を責める様にごめんなさい、と言うのだ。



「あたし、なんだか頭がおかしくなりそうで。…きっと、誰かに話したかっただけなんだと思います。くだらない事でお時間とらせて、本当に申し訳ないです」



助けてくださってありがとうございました、という様な事を口走って足早に去ろうとする彼女。しかし無意識の内に、今度は私が彼女を引き留めていた。引かれた袖に驚いた顔をする少女。



「えっと…あのさ」

「…はい」

「…私にも角が生えてるって言ったら、信じてくれる?」



その言葉に、大きな瞳が更に見開かれたのが見える。口から勝手に飛び出していった言葉に、私自身が一番驚いていた。

それでも藁にも縋る思いだった。
もしかしたらこの少女も、あの時こんな気持ちで私を引き留めたのかもしれない。そんなくだらない、期待にも似た邪推をした時、少女の口からぽつりと、「どんな角ですか」という様な言葉が漏れ出た。



「…氷みたいな冷たいもので出来てて、四角柱がねじれたみたいな、白くて長いやつ」

「…それは」



口ごもる少女。やがて彼女は戸惑った様に…まるでこんな事を言ってもよいのかと迷っているかの様に、困った風な笑みを浮かべて、彼女は言った。



「見えないのが、惜しいですね」



きっと、綺麗な角でしょうに。

そう遠慮がちに額に触れてくる細い指先に、見えないものを見ようと、眇められた瞳に、心臓がとくりと息を吹き返したのを感じた。





春を待つひと



(2015/1125)




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