koneta | ナノ


桃/ロマニ


彼が素手を露にしているのを初めて見た。
男の癖に白く、きめ細やかな肌と、桜貝のような
淡い色の爪。ごつごつと骨のかたちが見てとれる
とてもずるい魅力に満ちた造形。


そんな手のひらに乗った果実。桃。Peach。
うぶ毛を取り払われて、地肌の紫にも近い濃い紅
を晒している。いたいけな黄色のグラデーション
が可愛らしい。


それに彼は徐にかじりつく。
その光景に抗いがたいフェティシズムを感じ、私
は息を飲んで静かに見守った。


端正な門歯が皮の一端を摘まむ。
見た目に反して中々頑固だ。しかし少しの抵抗を
見せただけで呆気なく破れ、徐々に内包した白い
果肉を晒していく。
ぺろりと剥かれた表皮は皿へ。その作業は晒され
た果肉が半分ほどになるまで続けられた。


そしてとうとう、彼はそのいたいけな果実にかぶ
りつく。ぐじゅり、という桃独特の水気の多い、
繊維を断ち切るぷちぷちという音の混じっ
た、甘い悲鳴が鳴る。とろけそうな香りがこちら
にまで漂ってきて、熟れているのがよく判る。
というか一口が以外に大きいな。


口に含みきれなかった果汁が溢れ出す。零れぬ様
にと彼の舌が、果肉をぺろりと拭う。しかし僅か
に間に合わなかった汁が、手のひらから伝い落ち
る。それを追いかける彼の仕草のなんと悩ましい
事か。


果肉を喰らい尽くし、また皮を剥く。顔を出した
種を慰みに舐る。白い果肉に食らいつく……。


そんな事を繰り返す内に、やがて果実は一粒の種
だけとなった。彼は丁寧に皿にそれを置き、そし
て最後に濡れた指先をちゅう、と吸う。


……まったくなんという事だろう。齢にそぐわぬ
幼い顔立ちで、優男らしいたおやかな振る舞いで
油断させておいて、唐突にそんな妙な色気を醸し
出してくるなど卑怯にも程がある。


堪らず見とれてしまった私の胸はやり場のない熱
を持って、とくりとくりと鳴っていた…────。







「アンデルセン、何書いてるの?」
「何、昼間見たものを書き留めていただけだ」
「ふぅん、見てもいい?」
「ダメだ。令呪でも使われたらかなわん」
「???」





アンデルセンは見た
(覗き見、ダメ、絶対)



2016/08/21 17:40





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