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140字に収まらないSS/芥アキ





貴方は芥アキで『愛してみろよ』をお題にして140文字SSを書いてください。
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「あ、それわたしのだよ」

 テーブルの上の見慣れたマグカップを手に取ると、珍しくそんな言葉が横槍を入れてきた。珍しい事もあるものだ、と思いつつ横目で見遣ると、「べつにいいけど」とカップの主は言う。ならば、と口に含んだ瞬間、芥川は思いっきり眉を顰める。

「だから言ったでしょ」

 それは紅茶の色と香りがする甘ったるい何かで、渋い顔をする芥川の顔を見て、アキは困った様に笑っている。

「幾つ入れた」
「おさとう?五個」

 それを聞いた自分がどんな顔をしていたのか、芥川には知る由も無いが、彼女が慌てた様に「いつもは四個だよ!」と云うので、大体想像はついた。
 五個も四個も大して変わるまい、その内身体を悪くするぞ。そんな様なことを芥川が言うと、彼女ははぁいと生返事をしてから、思い立った様に芥川のマグを取り出して、紅茶を注いだ。何故かちらりと芥川を見て悪巧みをする子供の様に笑う。そして芥川の目前で、あろう事か角砂糖を三つ放り込んで見せた。

「はいどうぞ」
「…何のつもりだ?」
「たまにはいいでしょ」
「何がだ」
「同じものを味わうというのも」

 って言っても、私のよりおさとう二つも少ないけど。
 そんな事を呟くも、アキの瞳は、何処か挑戦的に芥川を見ている。不意にその意図が読めて、鼻から呆れた様な笑いが抜けていった。
 試しているのだ、この娘は。愛してみせろ、と。
 不敵に笑って、芥川はぐいとカップを傾け、飲み干した。

「え、ほんとに飲んだ…」

 差し出しておいて、驚愕の声を上げるアキを、じろりと芥川は睨め付ける。

「飲めと言ったのはお前だろう」
「言ったけど絶対飲まないと思った」

 言いながら、んへへ、と顔を弛める娘を見て、溜息を吐く。見た目ほどの餓鬼ではない、というのが芥川の彼女に対する評価であったが、彼女も年相応に子供だったらしい。…それとも、それは芥川の前だからなのだろうか。
 向かいの椅子に座って、尚もにまにまと笑っているアキに、口から盛大な溜息が漏れた。

「何処いくの?」
「甘ったるいのは紅茶だけで充分だ」
「え?なんのはなし???」

 訳が分からない、という顔の彼女を置き去りに、芥川はキッチンへ向かう。そう、甘いのは紅茶だけで充分なのだ。しかしそれは、一体誰に向けた言葉なのか。まったく、呆れた話だ。



角砂糖五つ分の愛情







一番甘いのは誰なのか、というお話。







2017/10/06 05:59





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