お題SS/ご近所さん!の福ネコ 土を耕し、堆肥を混ぜ、畝を作り、種を蒔く。 水をやって、肥料をやり、必要ならば支柱を立て、余分な葉や実を摘み。 そうして漸く、収穫にこぎ着ける。季節は春の終わり。冬を凌いだキャベツと、さやえんどうの最後の収穫だ。 「今年も豊作だったねェ」 「賢治がよく、見てくれているからな」 収穫した全ての野菜を段ボールに詰め終え、一息つきながら言えば、そんな返事が返ってくる。そちらの方に目を向けると、眩しそうに畑を眺める夫の姿。 普段の厳めしい和装姿とは打って変わって、動きやすい作業着に身を包んだその人は、おもむろにボトルの水をぐいぐいと豪快に喉に流し始める。 くす、と思わず笑えば、ちらりと横目でこちらを伺ってくる様子が何故だか子供の様に見えて、一層愛らしい。 「そんなに慌ててお飲みでないよ」 言うと、おどけた風に肩を竦めてみせる彼。 まったく、でかい図体してる癖に、中身はいつまで経っても子供だ。なのに、年を経て幾分穏やかにはなったが、精悍さを失わない横顔にはいつもどきりとさせられてしまうのだ。 「猫さんはずるいねェ……」 「何の話だ」 「なァに、独り言さ」 怪訝な顔に笑みを返せば、見計らった様なタイミングで、遠くから少年の声が響いてきた。 「社長!ネコメさーん!」 「……賢治か」 「ふふ。あの子にも分けてやらなくちゃねェ」 「マンションの者達にもな」 「春キャベツは人気だからねェ、多目に持って帰ってやろう」 微笑んで頷く夫に、ネコメもまた穏やかな顔で微笑んだ。 春のひととき 2017/06/02 12:20 |