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ひな祭り/アキと国木田


突然届いた箱を開けるとびっくり。中身は立派なひな飾りのセットだった。



「こりゃうちのは必要なかったかなぁ」



出来上がった豪勢な雛壇────敦たちが作った人形も混ざった、賑やかでちょっぴり禍々し…微笑ましい雛壇だ────を見上げて苦笑しているアキに国木田が、うちの分?と疑問符を上げる。



「今日ひな祭りだし、雰囲気出ればと思ってうちにあったのを持ってきてたの」



言って、自分のデスクの横に置いてあった箱を開ける。中にはアキが言った通り、ひな人形が納まっていた。送られてきたものとは違い、男雛と女雛だけだが、しかし人形の類いに造詣のない国木田でも目を見張る程、よく出来た美しいひな人形だった。二体だけの簡素な組合わせと言えど、質感といい、その造りの精緻さといい、決して安物ではないのは見て取れる。この二体だけでも結構な値が張るのではないだろうか。おまけに、アキはもう18だ。ならば、購入されてから少なくとも十数年は経っていると思われるが、しかしその人形に劣化や傷みは見えない。よく手入れされ、大事にされてきたのだろう。



ひな祭りは、女の子の幸福と健やかな成長を願う行事だ。華やかで愛らしくも、何処か慎ましやかな佇まいの美しいひな人形から、彼女にこれを購い与えた人物がどんな気持ちでいたかが伺い知れる様で、国木田は思わず目尻を下げる。

ひな人形の優しい横顔がアキを見つめている。そして労る様に人形に触れるアキの手つきもまた優しく、感謝に溢れていた。



────人の愛というものは、きっとこうして受け継がれていくのだな。



鏡花にせがまれ、笑って他の人形と共にそのひな人形を飾り付けているアキの笑顔の中に、人の世の流れとでも言うのか、何か大きな流れの一幕の様な、そんな何かが見えた気がした。



2017/03/04 15:15





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