みじかいの | ナノ

「・・涯、いまいーい?」

控えめにドアから覗きこめば涯は優しく微笑んで部屋へといれてくれた。なまえは寝間着のまま涯の傍に歩み寄る。ひょっこり横から涯がなにやってるのかと確認すればなにやら難しそうな本が数冊あり、その一冊に手を伸ばしてぱらぱらとめくった。瞬間、くらりと目眩がおこる。


「難しすぎて分からない」
「なまえにはこっちだな。それよりどうした。こんな時間に。」


渡されたのは一冊の本にホットミルク。"人魚姫"
なまえの一番好きな本だった。本って言うより絵本。絵本というより童話。
どんな有名なひとが書いた難しい本よりも、まわりからこの年齢でこんなものを読むのはおかしいと言われても、なまえはこの本が大好きだった。涯のベッドへ腰かけてページをめくる。懐かしい。昔は涯によく読んでもらった。だから好きなのかもしれない。普段喋る涯の声色よりも優しくて安心する声。次第に眠くなっていっていつも寝るまえに涯に読んでもらって部屋へと運んでもらったのを覚えてる。


「ねえ、涯。」
「なんだ。」
「昔みたいに読んで?」


手で合図をおくり、本をさしだす。涯は暫く考えこんだものの、椅子から立ち上がりなまえがいるベッドへと向かった。本を手にとり、1ページ目をひらく。文字に目を通し、一呼吸おいて読みはじめた。なまえは目を瞑り、涯の優しい暖かな声に酔い痴れる
大好きな大好きな涯の声。

「幸せだよ涯」
「なまえ。頼むから寝るなよ」
「・・・・・」


"幸せだからいいんだもん"