同じクラスの鞍馬くんは超がつくほどの人気アイドルだ。地味な私かお近づきになれる相手ではない。
「…前が見えない」
先生に頼まれた資料を山積みでもち、見えないながら感覚で歩いていく。なぜか運悪く捕まってしまったのだ。今日は厄日かなあ、なんて泣きながら心の中でため息を吐く。気を緩ませたのが原因だったのか。人とぶつかってしまい、派手に尻餅をついた。資料は察したとおり、あちらこちらにばらばら。慌てて拾い始めればぶつかった相手の声が聞こえた。
「ちゃんと前見てあるかないと危ないよ」
なんか聞き覚えのある声だ。
「…あごめんなさ、」
頭をあげれば、
私は目の前の人物にぴしりと固まってしまう。
「く!くら、らららまく!」
あの、鞍馬くんだった。
びっくりしすぎて上手く喋れない。噛み噛みで話す私に鞍馬くんは笑った。
「手伝ってあげようか?」
「え!?いえ!そんな!鞍馬くんに手伝ってもらうなんて!」
頭を力一杯左右にふる。それでも鞍馬くんは手伝ってくれた。
「はい。最後の一枚」
「あ…ありがとう」
「気をつけて」
ちゅ、と頬に唇の感触。今ここに鞍馬くんのファンがいたらどうなってただろう。
「もう顔洗えない…」
鞍馬くんが立ち去ってからも、暫くその場から動けないでいた。