涯は長い廊下を歩いていた。
「おかえりなさいませ」
「なまえはどこにいる」
「なまえさんでしたら部屋にいます」
「・・・・・そうか」
一つの部屋のまえまで行き、ノック一つおとさずにドアをあけた。目の前に視線をやれば幼い少女が立っていた。どうやら着替え中らしくて顔を真っ赤に口をパクパクと金魚のようにさせている。暫らく動かないでいれば涯が靴音をたてて近づいてくる。その音に体をびくつかせておっきく見開かせてた瞳が潤み、涙を滲ませた。
「―――・・・っ!?」
本来ならばこのすぐ瞬間に発せられる筈の大声は涯の掌により塞がれた。
「大声をだそうとするな
只でさえお前の大声は耳に響く」
「・・ぷはっ
なに、よ!ノックなしに部屋にはいってきたくせに!」
「見られるのが嫌なら部屋の鍵ぐらいしめたらどうなんだ
もっとも俺は見たくもなかったが」
「ああーっ!酷いっ
開きなおったあっ」
隣でぎゃあぎゃあと口煩く騒ぐなまえに涯は顔を歪ませ、指で片方の耳を塞ぐ。持っていた書類を机へと置いた。
「明日までに目を通しておけ。そして全て頭に叩きこめ。いいな。」
「・・俺様。」
セーターに着替えながらなまえはぼつりと呟く。瞬間、涯のおっきな掌がなまえの頭を掴んだ。ぐぐぐ・・と力がこめられる
「いっいたたたたあっ
なにす・・!」
さらに力を増す涯の手。
このままでは身の危険が危ないとなまえは瞬時に悟った。
「分かった!
分かったわよおっ」
そう叫べば涯は手を離してくれた。ぎっと涯を睨み付ければ平然とした顔つきに苛立ちを覚えた。拳に力がこもる。
「・・なにか文句でも?」
「へあっ?」
間近に詰め寄られ、顎に手がおかれる。なまえの顔はさっきよりも真っかっかに染まった。身体が硬直し、固まったように動けない。
「ないないない!
だから離して・・っ」
「ほお・・」
「・・ううーっ・・
変態ロリコン・・っ」
「誰のことを言っているのかな」
「さーて、誰でしょお?」
目の前にはにっこりと黒い笑みを浮かべた涯がいる。まずったかもしれない。なまえは思った。
「お仕置き、かな?」
「ひいいいいいっ」
・・私は涯が苦手だ。
ここだけの内緒の話。
「・・・っサディスト!」