「私、フルート演奏者なの」
「・・うん、だから何?」
放課後。転校してきたばかりの彼女、なまえにそう声をかけられた。不信に思い、そんな眼差しを彼女へ向ければ慌てて声を発する。
「・・あっ!
もしかして変に思ってる!?そうだよね ごめんなさい!」
「いや、別にいいんだけどさ。それと僕がなんの関係があるのかなーって」
「・・有馬くんピアノやるんでしょ?昨日音楽室の前偶然通って、聞こえちゃった。素敵な音色で暫くそこから動けなかった。よければ私のフルートと合わせてみないかなあって・・」
「・・・」(聞かれてたのか。面倒くさいな)
「あれはバイト用。」
「へ!?バ、バイト?」
「新譜を耳コピして譜面におこしてるんだ。カラオケ用とかね。だから確認のために弾いてるだけ。他あたって。」
「で、でも・・っ有馬くんすごい楽しそうな顔してたのに」
「僕ピアノはもうやめたんだ。」
笑う有馬くんはすごく悲しそうだった。
「私は演奏者としてみんなが幸せになれるように弾いてるよ。有馬くんは?」
煩い。なんだよ。僕に構うな。はいってくるなよ。
「有馬く・・」
「誰に僕のこと聞いたか知らないけどもう話かけてこないで。」
「・・椿ちゃんに聞いたの。図々しくてごめんなさい。でも今の有馬くんがピアノに触るのはピアノが可哀想だよ」
・・可哀想?
なんだよ。さっきから偉そうにぺらぺらと。
「それじゃあね。ばいばい。」
小さく手をふって彼女は帰っていった。小さな声で呟いた彼女が囁いた最後の言葉にさえも振り向くことはなかった。僕の心にもやもやを残していった彼女。
(名前・・なんだっけ?)
ああ、みょうじなまえだ。絶対忘れるものか。
「椿に・・アイツにきつく言っておかないと」
"あなたはピアノが嫌いなの?"
そんなの、 分からないよ