みじかいの | ナノ

「蜂蜜は甘ったるいから嫌いだ。」


私が持っていた瓶を横目に涯がそう言った。
今から紅茶にいれようと思っていた本人の前でよくそんなはっきり言えたな。


「・・・涯に食べさせるわけじゃないし。」
「見るのも気分が悪いんだ。それぐらい何年も一緒にいたお前なら分かるだろう?」
「いや、初めて聞いたよ。涯って蜂蜜嫌いだっけ?
んう〜・・!開かない・・っ」


瓶の蓋があいてくれず、格闘していれば涯に奪われる。そしたらきゅぽん!とたった一回。たった一回回しただけなのに簡単に蓋が開いた。あんなに自分がまわしてもあいてくれなかったのに。なんかこの光景にとてつもなく悔しくなった。自分だって日々筋力トレーニングを欠かさずしてるのに一体この差はなに。いかにも目の前にいるこの男は運動なんてしてなさそうなのに。


「どうした。折角あけたのに使わないのか」


それどころではない。
だが先程からピーピー、とヤカンが沸いた合図を発してる音がするのに動かないから不思議がってる。スイッチを切り、疑問を涯へとぶつけた。


「・・・あの、さあ。涯ってなんか筋トレとかしてたりする、の・・?」
「俺がそんなのする筈ないだろう。」


その瞬間、自分の目の前に雷が落ちた衝撃に襲われた。そりゃもう綺麗に。

悔しい、悔しい、悔しい!!

悔しくって涯のほうに向き直り、これでもかと、叫んでやった。

「涯のナルシスロン毛ー!」
「なんだと」
「うわああ!酷い!あんたやっぱりサイテーよおっ!」

その場に泣き崩れる。

「ちょっと待て。話が全く分からん!」
「そんなヤツだと思わなかった!」

「涯?なまえ?そんなとこでなにして・・」
「綾瀬ええ!」


たまたまはいってきた綾瀬に抱きつく。当然訳がわからないから動揺してるがそんなのおかまいなしだ。


「綾瀬!涯ってば酷いのお!」
「は?・・はっ!?」
「綾瀬丁度いい所で来てくれた。さっきからコイツの言うことが訳分からん。通訳頼む。」
「私っこんな所にいられない!葬儀社なんかやめてやるううううう」


わんわん、泣かれて首根っこに必死にしがみつき変な奇声をあげて喋るなまえに綾瀬はこれは分からなくて当然だと、納得した。そして頭を抱える。最初会ったときからおかしな子だと思っていたけれどまさかここまで・・。


「・・とりあえず言い分は分かったわ
でも完全言いがかりだから」

「綾瀬には一生理解できない話よ。」

「でも集も力ないわよ。」

「涯を集と一緒にしないで!」

「・・はあー・・」

「涯!負けないわよ!いつか私も涯に負けないマッチョになってやるんだから!」

「・・勝手にしてくれ」


そして最後に言い放ったこの台詞がさらに二人を悩ませたという。


「涯の筋肉そのものが欲しい!」



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